その一端は、倉本さん自身の言葉からも垣間見える。ドラマの最後に結ばれた純と結(内田有紀・41才)の新居が富良野のロケ地に完成した際の2004年のイベントでは、『遺言』から新居完成までのシナリオを披露。
「『北の国から』はここで進行中。新たな家も建設予定」と話し、集まったファンを喜ばせた。2011年に刊行した『獨白 2011年3月 「北の国から」ノーツ』には、さらに踏み込んだ未来が綴られている。
《純はたぶん、富良野にいないと思うンだ。あいつは結ちゃんと離婚して、結局東京に出て何かやってる。(中略)親爺のことは思っちゃいるけど、定期的に仕送りをしてくるわけでもない》
《蛍は正吉と関東にいる。(中略)でも忙しいから正吉も蛍も、富良野に顔はめったに出さない》
《五郎は一人で相変わらずやってる。(中略)五郎って人はね、昔から税金をおさめてないンだよ。年金も勿論払ってなンかいない。だから入ってくる年金なんて全くないし、生活保護も受けてない。(中略)オラは無国籍だ。日本人とはいえん。自然人だ。自然の世話になってる自然の民だ。独居老人の毅然とした生き方》
さらに、『文藝春秋』(2012年3月号)には、「頭の中の『北の国から』――2011『つなみ』」と題した文章を寄稿した。
《その後の純の人生は些か波乱に満ちている。2003年。純は結との結婚を果たし(中略)二人は蜜月を過ごすが、2006年破綻が来る。些細ないくつかのいさかいの揚句に、結は突然消えてしまう。狂ったように純は探すが結の行方は遥として判らない》
《蛍は看護師の資格を生かして南相馬市立総合病院に職を得、(中略)巨大地震が東北地方を襲ったとき、蛍は入院病棟で勤務についていた》
現実に起きた震災も取り入れ、今にも登場人物たちが動き出さんとするほどのリアルな「最終章構想」。15年ぶりの『北の国から』に期待は高まる一方だが、それでも新作の制作に取りかかることができない最大の理由を、別の芸能関係者が明かす。
「『北の国から』は、五郎の物語なんです。五郎が登場しない、つまり、田中さんがいない『北の国から』はありえないと、倉本さんはいつも漏らしていますから…」
◆万全じゃないと家に戻れない
田中が最後に出演を果たしたのは2010年公開の映画『最後の忠臣蔵』だった。2012年に地井武男さん(享年70)のお別れ会に出席したのを最後に公の場にも姿を見せていない。