「自分を説明しない」ために西郷に余計に生じる不可解さは、後天的なものだった。島流しになった時期まではあった理詰めの性格を隠し、「人間的な底力を養いながら茫洋とした人物像を可能な限り演じ続け」たと見る。
勿論、それだけでは西郷の魅力は生まれない。多情多感な涙もろさ、憎悪の激しさ、武力発動の効果の重視、目配り気配りと部下思い、陽明学と禅の影響。それらが渾然一体となって大きな体躯となっていた。西南戦争の終盤、著者は西郷の「微笑」を書き留める。その笑顔を自由に思い描くことは、この評伝を読む者の特権である。
※週刊ポスト2017年11月3日号