明治の初め福沢諭吉が『学問のすすめ』でこう言っている。「一身独立して一国独立す」。国民一人一人が近代的学問を身につけて独立すれば、一国も豊かになり強くもなって独立し、西洋諸国を恐れることは何もなくなる。明治期の国際状勢が反映された言葉だ。

 明治期だけではない。大東亜戦争も、少なくともその理念においては、日本を含むアジア諸国の西洋列強からの独立があった。べ平連の中心メンバーであった小田実でさえ大東亜戦争一部肯定論を称えているほどだ(『日本の知識人』)。

 さて、こんなにすばらしい独立も、時にはうまくいかないことがある。前述のアフリカ諸国のうちいくつかの国では、独立後かえって経済も停滞し政治もうまくゆかず、内乱や大量虐殺も起きている。福沢の言う「一身の独立」のないまま「一国が独立」したからだ。

 カタルーニャは、どうか。独立には期待が持てそうだ。もともと産業が発達して豊かな土地柄でもあった。そのことが中央政府への反撥にもつながっている。俺たちの生産した富が他の連中のために使われている、と。

 ここにもう一つの難問が浮上するだろう。

 現在、日本の富裕層は累進課税など、自分たちの稼いだ富が過剰に吸い上げられ、福祉などに使われることに不満を抱いている。この人たちがどこかの地に次々に広大な住居を購入して転入し、その自治体を政治的にも経済的にも支配し、やがて独立宣言をしたら、どうなるか。この豊かな小独立国は是であろうか非であろうか。

●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。

※週刊ポスト2017年11月10日号

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