だが送検時の至近でクリアな映像を見ると、白石容疑者は両手で顔を覆っていた。黒縁の眼鏡の下に潜り込ませた手で、顔はまったく見えない。指を伸ばし、手を顔に押し付けている。そして、目を閉じて外部の騒ぎが見えないよう、見ないようにしていたのだ。
これだけ大胆で凄惨な事件を起こしていながら、こんな仕草を見せるとは。その仕草の意味を捉えるなら、何らかの罪の意識があるということだろうか。それともメディアへ顔をさらすことへの羞恥心なのか。どちらにしろ、顔を隠したことから、大変なことをしたという犯行の認識はあるのだと思う。
だが、両手の下に隠された微妙な表情を読み取ることはできない。もし手で顔を覆ったのが顔を見られたくない、外を見たくないではなく、表情を隠すためであったとしたら、仕草の意味はまるで違うものになる。事件への罪悪感はなく、巧妙で狡猾な面を覆い隠すように、顔を覆ったのかもしれないからだ。
以前、警視庁の元刑事さんに聞いたのだが、取り調べを行う刑事は、自供させながら容疑者の一挙手一投足を見逃さず、チェックする。その人独自の癖、仕草や表情などを取り調べの中で把握するのだ。その作業の上で、把握した癖や仕草などから供述のどこに真実があり、どこで嘘をついているのか、自供の信ぴょう性を見分けたりするという。容疑者と相対している刑事さんなら、この白石容疑者の仕草の意味を正確に把握できるだろう。
もう1つ、元刑事さんに聞いたのは遺体の損壊についてだ。今回の事件のように、遺体は見つかったものの殺害方法が明確にならない場合もある。容疑者が明らかに殺害したものと断定できないのだ。情報番組で言われているように、こうなると自白があっても裁判で覆され、殺人ではなく、遺体遺棄容疑で終わってしまう可能性が出てくる。だが人間の心理としては、殺害よりも遺体損壊の方がハードルが高く、遺体をバラバラにできる人間は人を殺せると元刑事は言っていた。刑事としての経験則ではあるが、納得できる。
容疑者はスカウトマンとして働き、スカウトした女性を売春する店と知りながら紹介して金を受け取り有罪になっている。女性は彼にとって商売道具だったのだ。スカウトマンという仕事を通して、女性を目的を果たすための道具、物として見るようになっていた可能性は考えられる。そして商売道具の女性によって結果的に有罪となった容疑者は、女性への憎悪を膨らませ、自分の欲望や欲求を満たすための道具としたとは考えられないだろうか。それも最も自分を正当化しやすい自殺志願者をターゲットとしてだ。どちらにしろ、これまでの快楽殺人犯とは違う何かが容疑者の心の中にあるようだ。
事件に関する情報は日々、更新されている。どこまで真実が明らかになるのか、捜査の進展を待つしかない。