昨今、日本でもコンパクトクラスのSUVは人気があり、モデル数はかなり多くなった。が、その多くはあくまで普通の道路を走るためのもので、バンパーやボディの下部を擦ったりするリスクを大して気にせずオフロードを走れるモデルは多くはない。ファッションではないSUVという切り分けでみると、国産車の同クラスでライバルになりそうなのはスバル「XV」くらいのものであろう。
燃費計測の際に用いる走行抵抗のデータを改ざんしていた問題で、国内ではブランドイメージを壊滅的に失墜させてしまった三菱自は昨年、ルノー=日産アライアンスの傘下に入った。
先頃発表された今年度の中間決算では黒字化。売上高営業利益率4.7%は高くはないが、高付加価値戦略の産みの苦しみに直面しているマツダや、利幅の縮小を止められないホンダの四輪事業よりは上で、とりあえず最悪の状態は免れた格好だ。
しかし、難しいのはむしろこれからだ。三菱自のような規模の小さい企業が先進国のメーカーとして生き残るためには、商品の付加価値を高めることが必須条件だ。それを果たすうえで重要となるのが、ブランドイメージである。
先に述べたRVRは海外では「ASX」という名で販売され、三菱自の稼ぎ頭のひとつとなっているが、国内ではまったく売れていない。もちろん数々の不祥事で信用をなくしたということも大きいが、それだけではない。たとえ商品が良くても「こんなクルマを買うなら三菱自」というイメージを顧客に持ってもらえていないことも要因のひとつだ。
国内において目下、三菱自のイメージリーダーとなっているのは、RVRとベースプラットフォームが共通で1クラス上のSUV「アウトランダーPHEV(プラグインハイブリッドカー)」だ。外部電源からの充電が可能な大型電池を搭載し、数十kmならEV(電気自動車)として走れる。
これまで国産メーカーでPHEVを発売したのはトヨタ自動車、ホンダ、三菱自の3社だが、トヨタが今年「プリウスPHV(PHVはトヨタのプラグインハイブリッドの呼称)」を発売するまでは、アウトランダーPHEVが文字通り圧勝していた。それどころか、日産自動車の純EV「リーフ」を販売で抜く月もあったほどだ。
一方、アウトランダーには、PHEVだけでなく、普通のエンジンを搭載したモデルも存在する。普通版のほうもPHEVと同じSUV。ドライビングの楽しさはそん色なく、かつPHEVが5人乗りであるのに対して7人乗りという特質がある。にも関わらず、RVRと同様、まったくと言っていいほど売れていない。
このことからわかるのは、現在の三菱自のブランドイメージは電動化技術に極端に偏っているということ。電気で動く三菱車は買うが、それ以外の三菱車は顧客の眼中にないという状況なのだ。
益子修社長は、10年あまり前に軽自動車のEV「i-MiEV」が世間から注目を浴びて以降、連綿とEVを三菱自の新たな看板に据えようとしてきた。たとえ三菱車は顧客からそっぽを向かれようとも、電動車両であれば購入リストに入れてもらえるという現実的判断があったのであろう。
EVの黎明期にはその戦術はある程度有効だった。だが、電動化以外にもうひとつ、クルマのキャラクターそのものについて強固なイメージを築かなければ、ライバルメーカーが電動車両の対抗馬を出してきた時点で必ずそれに押されるようになる。