団塊の世代が全員75歳以上になる2025年には介護保険からの給付総額は20兆円を超える見込みだ。この数字を少しでも圧縮したい国が、介護保険利用の抑制につながる自己負担増を言い出すのは分かりやすい構図だ。
一方で今回の法改正では介護保険サービスと、障害福祉サービスの垣根を取り払おうとする『共生型サービス』の導入など、利用者の利便性向上につながり得る試みが盛り込まれているのも確かだ。ただし、サービス利用者にとっての“不利益変更”のほうが目立つと、専門家たちは指摘する。
◆要介護度“格下げボーナス”
とりわけ懸念されているのが、介護保険利用者の「自立支援」という名目での「インセンティブ制度」の導入だ。介護アドバイザーの横井孝治氏が解説する。
「そもそも介護保険は、“利用者の要介護度が下がると事業者の収入が減る”というジレンマを背負った制度です。努力して良質なリハビリを提供し、利用者が要介護度3から2に改善したら、利用者は要介護度2の上限額までしかサービスを利用しなくなる。つまり、“よくならないほうが儲かる”という制度になっているわけです。そのため、国は『自立支援を促す』というフレーズを掲げ、利用者の要介護度を下げた自治体や事業者には別途ボーナス(介護報酬の加算)を出す、というのがインセンティブ制度の大枠です」
一見、もっともらしく聞こえる話だが、この制度は大きな危険を孕んでいる。都内で活動するケアマネージャーがこういう。
「要介護度が下がればボーナスが出るのですから、自治体や事業所のスタッフが認定を受ける人の要介護度を実際より下げて、“実態にそぐわない軽い介護度”にしてしまう心配があります。もともと要介護認定は、自治体の調査員による聞き取りがあるなど判定に“主観”が入ることを避けられない難しさがある。そこに“軽くしたほうが自治体も事業者も得”という動機づけ(インセンティブ)まで加わることへの不安が介護現場では囁かれています」