◆遠い人におなりにならないでください
世の女性たちが、親近感とともに「なりたい自分」を投影した一大ブームは、ご成婚パレードで頂点に達する。1959年4月10日、陛下と美智子さまがご結婚。同日のご成婚パレードをひと目見ようと、沿道に53万人の市民が集まった。
当時、中学を卒業したばかりだった美容家の佐伯チズさん(74才)は、東京から遠く離れた地方のテレビで世紀のパレードに釘づけとなっていた。
「テレビがそれほど普及していない村でしたが、テレビのある家にみんなが集まって、画面にかじりついて見ていました。皇族の出身のかたでは、と勘違いするほど、楚々として手を振られる美智子さまのお姿が目に焼きついています」
沿道に民衆があふれ、街頭テレビにも1500万人がつめかけるなか、おふたりを乗せた馬車が悠々と通り過ぎる。前出の中村さんは、夫で作曲家の神津善行さんとともに、NHKの生中継でパレードの実況を担当した。
「お馬車は遠ざかって行きますが、どうぞ美智子さま、あまり私たち国民から遠い人におなりにならないでください」
純白のドレスを身にまとい、頭上のティアラをキラキラと輝かせながら手を振る美智子さまを見て、中村さんは思わず声を上げていた。
「美智子さまに親近感を抱いていたので、つい口走ってしまいました。とても生意気な発言だったかもしれないけれど、私の心からの声でした」
馬車に乗って走り去られた美智子さまは、“ミッチー”と親しみを込めて憧れた私たちをそこに残して、「皇室」というはるか遠い世界に行ってしまわれたように思えた。
撮影/雑誌協会代表取材
※女性セブン2017年12月21日号