〈自分で投げたものは、なるべく自分で取りに行かせるように〉
〈お食事は山盛りより軽くよそい、「な~い」になったらたくさんほめてあげてください〉
こんなふうに優しい言葉で書かれたおよそ50項目に及ぶ子育てノートに感銘を受けたのは、美容家の佐伯チヅさん(74才)だ。
「『1日1回くらいはしっかりと抱いてください。愛情を示すためです』という項目から多くを教わりました。『抱いてください』とは、『ハグしてください』ということ。それまで日本には“ハグする”という概念はなかったと思います。美智子さまによって、“ハグする”ということを日本人は知ったわけです。
当時、私と同じように美智子さまから“ハグ”を学んだ女性は多いはず。彼女たちはみんなわが子を抱きしめ愛を伝え、親子関係をはぐくんだ。残念ながら私には子供がいませんでしたので、夫への愛情表現としてハグをしていました。夫がひげを剃っている時に後ろから抱きついたり。そのおかげでいつも仲がよくて、けんかをしたことがありませんでした。言葉がなくとも愛情は伝わるのだと強く実感しました」
特別な道具や知識は必要なく、誰でも簡単にわかり、実践できるナルちゃん憲法は多くのママたちの育児バイブルとなった。
1965年に礼宮さま、1969年に紀宮さまがお生まれになった後は、美智子さまの作ったお弁当を持ってお出かけする紀宮さまや、礼宮さまをカメラで撮影する美智子さまの姿が連日報道された。
お忙しいご公務の日々を過ごしながらも子供たちに惜しみない愛情を注ぐ“ワーキングマザー”ぶりに励まされた女性も数多くいた。女優の中村メイコさん(83才)もその1人だった。
「学校行事に参加されたり、動物園へ行かれたり、母としての美智子さまのお姿を頻繁に拝見しました。私たちの生活とは違う、皇室ならではのお約束事とか、お立場上のお悩みがおありになったと思いますが、皇太子殿下を支え、お子さまたちを立派に育てるお姿を見ると『私も頑張ろう』と…。私も、子供の幼稚園や学校の行事は早めに知らせてもらうようにして、仕事を調整して必ず参加していました」
当時は専業主婦が当たり前の時代。まだ少なかった働く女性たちは男性社会の中で、肩身の狭い思いをしながら、男性に負けないように闘い、さらには家庭も両立させるため、寝る間も惜しんで働き続けた。
皇室という慣れない環境下で苦しみながらも母としての役目を果たそうとされる美智子さまの姿は、多くの女性の励みとなった。
陛下との夫婦関係も日本中の妻の「お手本」となった。障害児の援助を通じて美智子さまと深い交流のある『ねむの木学園』園長の宮城まり子さん(90才)は、おふたりの夫婦愛が心に残っている。