十二月一日付産経新聞に山岡鉄秀が「慰安婦問題」と題し、先月訪韓したトランプ米大統領が元慰安婦をハグしたかのような演出を批判している。論旨に一理はあるのだが、次のような一節もある。
「こんな陳腐なことを国家レベルでやってみせるのが真の『韓流』ということらしい」
この「陳腐」って何の誤植だろう。似た漢字、似た読みの熟語が思い浮かばないのだ。ははあ、山岡は「陳腐」を「卑怯」か「低俗」の意味で得意気に誤用しているのだな、と気づいた。
「陳腐」は「古臭い」という意味である。「陳」は「ふるい」とも読む。「腐」ったものは臭い。しかし、慰安婦ハグ演出は珍奇ではあっても古臭くはない。
ここで思い出したのが、この夏に起きた美容整形外科医高須克弥と民進党議員大西健介との陳腐バトルだ。テーマが「陳腐」だったし、バトルも昔からある無知な者同志の陳腐な争いだった。
きっかけは、大西が厚労委で「エステ業界は陳腐な広告が多い。イエス○○クリニックみたいに」と発言したことだ。これに対し高須が名誉毀損だとして一千万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
しかし、エステだの美容整形だのの広告は、大昔から「美しくなります」の陳腐なものばかりではないか。風邪薬の広告は「熱・咳に効きます」の陳腐なものばかり。食品の広告は「美味・滋養」の陳腐なものばかり。大西はなぜこれらを厚労委で問題にしないのだろう。高須は陳腐な広告だと批判されるのが嫌なら「当院ではブスを作ります」と斬新で珍奇な広告でも始めたらどうか。
いやはや。この調子では再来年の天皇退位の報道では、どんな誤植や誤用が出て来るか分からない。今から心配である。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2017年12月22日号