鉄道の線路は、2本のレールを一対として構成されている。このレールとレールの幅を軌間と呼ぶ。全国に敷設されているJR在来線の多くは1067メートル軌間を採用しているが、江ノ電の軌間も同じく1067ミリメートルを採用している。
一方、玉電は江ノ電と異なり1372ミリメートル軌間を採用していた。そのため、旧玉電車両が江ノ電に譲渡されるに際して1372ミリメートル用の台車を交換されていた、つまり、江ノ電のデハ80形は純正な旧玉電車両ではなく、江ノ電仕様に改造された車両だった。そうした背景から、「あれは、旧玉電車両ではない」という不満が噴出する。
世田谷区は改造費が高額になることを議会で報告。改造費用がネックになり、台車等の改造をしないまま宮坂区民センターの広場に展示された。
この話は、そこで終わらない。それを容認できない一部のファンが、「議会で報告された改造費用は高く見積もった数字。費用を高く見積もることで、改造を諦めさせた」として、世田谷区の議会報告を偽証だと提訴する。最高裁まで争われた同訴訟は、2014(平成16)年に原告の言い分を退ける形で決着。
今回のふるさと納税で修復費用を集めるデハ80形には、そんな隠れた過去もある。ふるさと納税で、台車を交換する改造費用まで集められる見込みは薄いという。
「展示車両の車体側面には、EERという文字が取り付けられています。これは、江ノ電を現すEnoshima Electric Railwayの頭文字をとったものです。また、デハ80形は江ノ電に譲渡された際に600形に改番していて、この部分も江ノ電時代のままです。せっかく旧玉電車両を保存展示しているのだから、せめてこの部分だけでも取り替えられないか? というご意見もいただきます。お気持ちは理解できるのですが、現段階では『集まった金額を見てから検討する』としか言えません」(同)
2008年に再塗装されて以降、デハ80形は手入れをされることなく放置された。デハ80形は屋外に展示されており、雨除けの屋根もない。そのため、車体のあちこちにサビが浮き、劣化は激しい。
今年、玉電は発足から110周年を迎え、世田谷線では記念電車が運行されている。世田谷区が取り組むふるさと納税プロジェクトは、玉電を未来へ引き継ぐことを目的にしている。豪華な返礼品を用意しない同プロジェクトによって、果たして玉電を未来に継承することはできるのだろうか?