しかし、「暴力は良くないが、貴乃花のやり方も良くないよね」というのは、「いじめられる側にも問題がある」というのと同じだ。これを認めてしまうといじめはなくならない。角界という特殊な世界だからそのような状況になったのではなく、会社組織でも当たり前のようにいじめは起きる。
仲間意識の強い集団ほどいじめは起きやすく、目立って、集団から浮いた人が標的になりやすい。よくあるのは、「なんであいつだけ昇進できたのか」「あいつだけ楽をしている」「親が金持ちのお坊ちゃんだ」などと周囲から思われる状況で、集団の秩序を守るために制裁を加えて排除すべきだというスイッチが入る。
こうしたいじめを回避する方法としては、一つは、誰にも手の届かないほどの存在になることだ。青色LEDを開発した中村修二氏は社内で研究に没頭できる環境を与えられ、ある意味“特別扱い”だったのだろうが、ノーベル賞を受賞し、誰も批判できなくなった。
もう一つは、致命的にならない程度に自分の格好悪い姿や弱点をさらすことだ。それにより、相手の妬みを抑え、秩序を乱す人間ではないという認識を誘導できる。代議士の小泉進次郎氏は、政治家一族の名門に生まれ、容姿にも恵まれて妬まれやすい立場にあるが、自らを「客寄せパンダ」と敢えて認めてみせるなど、周囲からの妬みを抑える努力をしている。職場で活躍しようと思うならば、同時に妬み対策も必要だ。
【PROFILE】なかの・のぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にてニューロスピン博士研究員として勤務後、帰国。現在、東日本国際大学特任教授。近著に『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館新書)。
※SAPIO2018年1・2月号