不動産開発業や投資によって180億元(約3054億円、一昨年時点)の資産を築いた中国の大富豪、郭文貴(かくぶんき)。彼はかつて北京五輪がらみの公共事業に食い込み、中国の情報機関である国家安全部(国安部)や公安部とも協力してきた筋金入りの政商である。2014年、親交のある国安部元副部長・馬建の失脚を前に海外へ逃亡した。
やがて昨年春、自身が中国政府に国際指名手配を受けた前後から、郭文貴は様々なメディアや自身名義のYouTubeなどで多数の党高官のスキャンダルの「爆料」(暴露)を開始。中国政界に激震をもたらしはじめた。
特に苛烈な攻撃を加えたのは、習近平政権第1期に党中央紀律検査委員会(中紀委)を率いて汚職摘発の辣腕を振るった王岐山(おうきざん)と、公安・司法部門のトップだった孟建柱(もうけんちゅう)だ。
「爆料」の中には、王岐山が有名女優の性接待を受けたことを匂わせるような動画もあった。こうした告発の内容の信憑性に疑問の声も上がるが、稀代の梟雄・郭文貴の弁才がフルに発揮されたネット動画には独特の魅力もあり、国内外の多数の中国人を惹きつけている。
中国共産党が最も恐れる男・郭文貴。2018年、彼が採る次の一手は何か? ニューヨークで本人に直撃した。
──弁才豊かな大富豪がSNSでネット住民を扇動し、政敵を攻撃する手法はトランプのお家芸です。郭さんはトランプに好意的で、政権の知恵袋のスティーブン・バノンとも懇意。ネットでの暴露作戦はバノンの入れ知恵でしょうか?
「それは違う。事前に弁護士と相談してから自分でやったもので、私に『軍師』はいない。私はネット、特に動画配信がときに軍隊に勝る力を持つことに以前から注目していたんだ。バノンさんと出会ったのも、私が暴露をはじめた後だ。
ただ、彼とはウマが合うし、第三者の編集を受けない自前の媒体は魅力的だ。今後、彼と相談しながらそうしたウェブプラットフォームを立ち上げる予定だ」