網膜は眼球の内側にある薄い膜で、カメラにおけるフィルムの役割を担っている。網膜には動脈と静脈があり、その2つが交差している場所は血管の外壁を共有している。このため高血圧などによって、共有している部分に動脈硬化が起こると静脈にも影響し、血栓ができ、血流が途絶えることがある。これが網膜静脈閉塞症だ。自覚症状としては目のかすみやゆがみ、視力の低下などがある。
西葛西・井上眼科病院(東京都江戸川区)の井上順治院長に話を聞いた。
「この病気は症状に気づかないこともあって、健診の眼底撮影で発見されるケースがあります。網膜静脈閉塞症には、動脈と静脈が交差する場所が閉塞する網膜静脈分枝閉塞症と網膜中心静脈閉塞症の2種類があり、閉塞の場所によっては症状も違いますが、眼底撮影での診断は可能です」
網膜静脈閉塞症の眼底写真では、赤く見えるはずの血管が閉塞部で白く見える。網膜静脈分枝閉塞症は、症状が進むと眼底出血や網膜の中央にある黄斑の浮腫が起こる。眼底出血した場所は、瞳孔から入る光が網膜まで届かないので、その部分が遮られ視力低下や視野に欠けが出る。
眼底出血後、最終的に視力がどの程度回復するかは黄斑の障害の程度によって決まる。眼底出血や網膜の浮腫が黄斑にまで達すると血流が悪くなり、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)という物質の働きによって血管が新生され、さらに出血したり、水がしみだし、次第に黄斑が障害されて、重度の視力障害が残ることもある。
網膜中心静脈閉塞症は、網膜の静脈が視神経乳頭で1本にまとまり、この1本になった静脈の根本が閉塞する。網膜全体が影響を受けることで眼底一面の出血や浮腫が広がり、視力が急速に低下する場合もある。