「田南部コーチの娘さんが、女子代表の合宿からハブられているのは皆が気づいていました。でも、それを問いただすとか、彼女も呼ぶべきだと意見する場所がない。女子の代表選考や強化のシステムは、栄さんが気に入るかどうかという点も大きく影響するようになっていると私たちは思っていました」(元女子レスリング選手)
レスリング協会の栄和人・強化本部長は長く女子レスリングの強化に携わってきた。伊調馨を世界チャンピオンと五輪金メダリストに育てたのは、栄氏だと誰もが認めている。だが、長く女子の強化部門でトップに居つづけるうちに、代表決定に私的な感情を持ち込むようになったとの指摘が聞こえてくるようになった。
「ある年、世界選手権代表決定プレーオフで勝った選手を栄さんが気に入らなかった。そこで『あの選手は練習態度が悪いから、合宿で改めて代表を決める』と突然、プレーオフ直後に言い出したんです。そのときは勝った選手の側が、事前に公表されていたのと違う選考方法をいきなり言い出すのはおかしいと抗議したら、すぐに引っ込めました。でも次の年からは、女子だけ、代表決定プレーオフ戦が設定されなくなりました。合宿のなかで決めていくようになりました」(前出の元選手)
レスリングの競技人口は、日本全国で1万人にも満たない。そのなかの女子レスラー、さらに五輪の金メダルを目指す選手ともなれば、皆が顔と名前をすぐ覚えられるくらいの人数しかいない。そのなかで好成績をおさめるためには、選手の良さを少しでも引き出して強化するしかない。女子レスリングを発展させるためには、強くなりたい選手に機会が公平に与えられる環境が必要だろう。