そうこうするうちに新葛飾橋へ。この江戸川を渡ると、東京から千葉県に入る。
「来たね~」
『ビビ・KD』にすっかりなじんできた。
「の~んびりゆこうよぉ」
誰にも聞こえないのをいいことに、大昔に流行った歌を大声で歌いながら、県境を流れる新葛飾橋を渡った。
◆9:05/14.8km
ところが! 千葉に入ったら、こいでも、こいでも進まない、そんな気がしてきたんだわ。 あそこの交差点まで行ったら地名が変わるかも、と期待するけれど、ずーっと松戸。待ち合わせ場所でカメラマンと落ち合ったら、口をきく気も失せていたわ。
その後は、ず~っと柏市。ず~っと我孫子市。走りながら常磐線が見え隠れする。車窓から見たらあっという間に通り過ぎる町や風景も、自分の足だと尺取虫みたいに進まない。でも、それが面白いの。
途中で、ベンチコートから風を通さないビニールジャケットに着替えて、ところどころで水分補給。走り出してから約4時間。そのうちだんだん腹が立ってきた。道が悪すぎだよ。
つぎはぎだらけのパッチワークで、ときどき割れたガラスが落ちていたり、思わぬ段差があったりして油断もすきもありゃしない。かと思えば、工事で道が突然狭くなったり。
どこを通るか、小刻みにハンドルを動かして道を選ぶんだけど、それがえらく神経をすり減らす。
自転車が安心して走れない国ってどうよ。
「責任者、出てこーいッ」
自転車のいいところは、好きなことを口走る自由があること。喜怒哀楽を隠さなくてもいいこと。それにしても千葉と茨城の県境の利根川で、感動の涙を流すとは思わなかったね。
川を渡るたびに風景が変わる。町の扉が大きく開く。この変化を体で知ることを、冒険と言わずしてなんと言おう。
「疲れてから休んでも遅い。のどが渇いてから水分補給をしても遅い。それはお金がなくなってから稼ごうとするのと同じで、ダメージが大きすぎる」
◆13:20/47.1km
S氏のそんなアドバイスを思い出して、牛久沼で30分の休憩を取ることにした。出発から約6時間。約47kmを走っている。残量12%になったバッテリーを交換して、もぐもぐタイム。お腹も気持ちもチャージできた。
「さて、行くか」
自転車のペダルに足を乗せると、「よし行け~」と言わんばかり。いい感じに加速してくれて、まるで私の応援団みたい。