なぜ、このように対応が遅れたのか。社会保険労務士の稲毛由佳氏が指摘する。
「今回の年金の支給漏れは、これまで機構のミスによりたびたび起きてきた支給漏れとは違うという意識があったからだと思います。
今回は、年金の額面が少なかったのではなく、所得税を天引きする額を間違えたために、手取りの年金が少なくなっただけ。納めすぎの所得税は、最終的に確定申告を行えば、年金受給者の手元に返ってくるお金だから、年金受給者にソンをさせているわけではないという甘えの心理が働いたのではないでしょうか」
最も被害が大きかったのは、SAY企画により、提出した扶養親族等申告書が入力漏れとなった約7.9万人だ。支給漏れとなった年金は「少ない人で1万円弱。多い人で5万円」(3月20日会見)で、総額は19億6000万円に上る。
SAY企画が提出された扶養親族等申告書の内容を誤って入力した人は約7万人。多い人で約1万2000円の年金が支給漏れとなった人もいれば、逆に、約1万円の年金が多く支払われ過ぎとなったケースもあった。
それにしても、なぜ扶養親族等申告書という1枚の書類でこのような多額な支給漏れが生じたのか。
「老後の年金にも所得税がかかります。そのため、65歳未満で年108万円以上、65歳以上で年158万円以上の年金を受け取る年金受給者は、課税対象者となり、毎年、扶養親族等申告書が機構から送付されます。これを提出するかしないかで、年金から天引きする所得税の計算が変わるのです」(前出・稲毛氏)
まず、所得税の税率が変わる。扶養親族等申告書を提出した人の所得税率は5.105%だが、未提出だと10.21%と、倍に跳ね上がるのだ。
さらに、所得控除額が変わる。扶養親族等申告書を提出すると、年金から天引きされる所得税は、公的年金控除、社会保険料(介護保険と後期高齢者医療保険分)控除、基礎控除、扶養控除分を反映した額となる。しかし、提出しないと公的年金控除、基礎控除が少なくなるうえに、扶養控除分は反映されない。
つまり、扶養親族等申告書を提出することで、所得税がかかる年金が少なくなり、さらに、所得税率も安くなるというわけだ。