実際、稲毛氏に試算してもらうと、例えば、扶養配偶者ありでひと月の年金が16万円、社会保険料が2万円の場合、扶養親族等申告書を提出すると、課税される年金は2500円で天引きされる所得税はわずか127円ですむ。計算式はこうだ。
●16万円‐2万円【社会保険料控除】-(6万5000円+4万円【公的年金控除・基礎控除】+3万2500円【配偶者控除】)=2500円×5.105%=127円(円未満切り捨て)
しかし、扶養親族等申告書を提出しないと、課税される年金は10万5000円で、天引きされる所得税は1万720円に跳ね上がってしまうのだ。
●16万円‐2万円【社会保険料控除】-3万5000円【公的年金控除・基礎控除】=10万5000円×10.21%=1万720円(円未満切り捨て)
いまのところ、年金の支給漏れがあった人のうち、約6.5万人は3月15日に不足分が支払われたが、残りの人たちの清算は、次の年金の支給日の4月13日になるという。
現在、扶養親族等申告書を提出していない人は約91.1万人いる。この未提出者組は、支給漏れとなっている年金額でいえば、SAY企画による入力漏れとなった人たちと同様の状況にある。
「未提出の方には、分かりやすく見直した扶養親族等申告書を4月下旬に再送し、提出をお願いする予定です。ご提出いただければ、2月分までさかのぼって支給漏れとなった年金をお支払いいたします」(前出・日本年金機構広報室)
3月27日からは、各年金事務所の窓口で自分が提出した扶養親族等申告書の内容が正しく入力され、天引きされる所得税が合っているか、確認できる。万が一、年金事務所での清算が終わらなかったとしても、確定申告をすれば、支給漏れの年金=納めすぎた税金は取り戻せる。
だが、この確定申告がクセモノだ。2011年から、高年齢者の負担を軽減するという目的で、年金収入400万円以下で給料など年金以外の所得が20万円以下の人は、確定申告は不要になった。
確定申告をしなくても、日本年金機構に扶養親族等申告書を提出することで、公的年金控除、社会保険料控除、基礎控除、扶養控除の基本的な4つの控除が受けられるうえに、所得税は最低税率の5.105%になる。
「中には、日本年金機構で計算し、天引きしてもらう所得税よりも、確定申告で計算した所得税のほうが高くなり、追加で所得税を納める結果になる方がいます」(稲毛氏)
じつは、確定申告の不要制度は、日本年金機構が仮計算で所得税を天引きすることで、納め足りない人も確定申告をしなければその分の所得税を免除してくれるという“高齢者優遇税制”の側面も持つのだ。
「扶養親族等申告書を提出した人でも、国民年金や国民年金保険料分の社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除等のなどの各種控除は、機構では計算してくれません。そのため、これらの控除を受けられる人は、確定申告をすることで、機構が天引きした所得税の還付を受けられます。
一方、確定申告をしなければ所得税を追加で納付する必要もありませんが、住民税は、扶養控除や先の各種控除が受けられないので、その分、高くなります。住民税で扶養控除と各種控除を受けるには、住所地の市区町村で、都道府県税・市区町村税の申告書の提出が必要になります」(稲毛氏)