◆拘置所で綴る恋歌

 2016年1月4日、山辺被告はタイに逃亡する。ただここでも、同様のことを繰り返した。

「現地の男性にレストランで声をかけられて、その人とお付き合いすることになりました。31歳のプロボクサーです。私はこの人と結婚の約束をしました」

 これまでの男性とはすべてお金でつながっていた。ところが、彼だけは違うと彼女は言う。

「タイに持っていけたのは50万円だけです。お金のない私を彼はすごく愛してくれました。今でも待ってくれているはずです」

 山辺被告が記者に渡した短歌集『嵐の前に』には〈無防備の 君の裸体 夜明かり ひとり占めなる 甘蜜濡れて〉〈愛された 記憶たよりに 目を閉じる 乳房やさしく 君との時間〉と、この男性への想いが141首綴られていた。

「何年先になるかわからないけど、出所したらラオスで暮らします(事件でタイには入国禁止)。彼を呼んで一緒に暮らすつもりです」

 2人の子供は面会に訪れないという。“彼が待っているはず”という淡い期待だけが、彼女を支えているように見えた。

●取材協力/小川泰平(犯罪ジャーナリスト)

※週刊ポスト2018年4月6日号

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