『仁義~』に惹かれるのも「個と個が本気でぶつかり、命すらやり取りした熱さ」ゆえだと氏は言い、広島が美しい町に発展するまでの暗部も含めて、小説化する試みがこの三部作なのだ。
「私は震災で両親を亡くしていますが、命の輝きには儚さもまた同居するように、その熱さの裏側には醜悪で、みっともなくて、滑稽ですらあるものもギラギラ滾っていると思う。だから魅力的なんです。
もちろん法に触れることは犯罪ですが、これだけは譲れないというモラルや美学は人それぞれ。この縁だけは大切にしたいという個としての思いを誠実に貫いた日岡達にしても、結局は自分が何を恥とし、何を美しいと思うかなのだと思います」
〈仁義と正義〉は一文字違いでそれこそ大違いだが、国光が望んでいた逮捕は、警官と被疑者という立場や善悪すら超えた仁義の逮捕だったのだろう。彼らがよく口にする〈外道〉という蔑称にしても相手が極道か堅気かを問わず、互いに信じた相手を信じ抜く個と個の結びつきは誰の目にも美しい。
【プロフィール】ゆづき・ゆうこ:1968年岩手県生まれ。2007年「待ち人」で山新文学賞入選及び文芸年間賞天賞を受賞し、2008年第7回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作『臨床真理』でデビュー。2013年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、2016年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞。著書は他に『最後の証人』『パレートの誤算』『慈雨』『盤上の向日葵』等。大上を役所広司、日岡を松坂桃李が演じる映画『孤狼の血』が絶賛公開中。山形県在住。158cm、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2018年5月25日号