密輸は多くの場合、合法的な活動の中に非合法活動を潜り込ませるため、発見して制裁違反であることを立証するには困難を伴う。
実際に北朝鮮がエジプトにスカッド・ミサイルを密輸しようとした際に、某国連加盟国が航空貨物を差し止めて検査したのだが、それが制裁違反の貨物かどうか判断できず我々に捜査協力を要請してきた。というのも、貨物はあからさまな完成品ではなく、部品だったからだ。
それらは一見するとかつて一般的に使われていた産業用部品であった。多大な労力を費やした結果、それらがスカッド・ミサイルの部品だと判明した。
北朝鮮に兵器の部品が密輸入されるケースもある。北朝鮮の場合、汎用品から大量破壊兵器を製造することも多く、例えば2012年12月に発射されて黄海上に落下した「銀河3号」ロケットの1段目からは60点以上の外国製部品が見つかった。
これら北朝鮮が輸出入していた部品はいずれも秋葉原で購入できるような汎用品で、各国の検査当局が輸送途中で貨物を検査しても不正を見抜くことは難しい。
また、安保理常任理事国の中国、ロシアを筆頭に多くの加盟国が北朝鮮の制裁逃れを黙認する現実もある。私の任期中も中ロの軍事関連企業が製造する特殊車両が北朝鮮に輸入された後、改造されて多連装ロケットを搭載した車両になっていたり、ICBMの新型移動式発射台になっていたりした。
専門家パネルの公式照会に対して両国は「林業目的にのみ使用することで合意していた」「軍事目的で使用することは許されていない」と回答した。だが、北朝鮮が合意を破った場合にどうするのかについては一切説明がなかった。