登山家の栗城史多さんがエベレストで死去──21日午後、飛び込んできたその第一報に絶句した。栗城さんは8度目のエベレスト登頂に挑戦していたが、体調不良になり、下山途中のキャンプで低体温症のため亡くなっているのが発見されたという。35才。若すぎる死だった。
突然の訃報を目にし、瞬時に頭をよぎったのは5年前の2013年3月にインタビューをしたときのこと。「このまま挑戦を続けたら、彼はいつか命を落としてしまうのではないか…」。彼に会い、話を聞きながらそう感じたことを思い出した。
栗城さんは2012年10月、難関とされる西陵側のルートに初挑戦し4度目のエベレスト登頂に挑むも、登頂アタックの途中でジェット気流の強風のため断念、下山中に両手、両脚、鼻に重度の凍傷を負い、当時は両手の9本の指を切断の危機にあった。取材では、そんな彼に現在の思いや再チャレンジについて尋ねた。
渋谷区内の事務所で対面した彼は、思っていた以上に小柄で華奢な印象だった。両手に巻かれた白い包帯が痛々しかったが、その手を隠さず、率直に、穏やかな笑みを見せながら登山を振り返り、心境を語ってくれた。
そうは言っても、インタビューを快諾してくれた反面、単独・無酸素エベレスト登山とエベレスト登頂インターネット生配信に挑戦し、注目されていた栗城さんへはさまざまな批判があり、たくさんの誹謗中傷に傷ついてきたことを感じさせるような、初対面の記者を少し警戒する様子もあり、言葉を選びながら話していたことを覚えている。
登頂は叶わず重度の凍傷も負ったが、「今回は初めて山と向き合えた。大きな後悔はない」と語っていた。インタビューの中から、印象的な言葉を一部、抜粋する──。
「凍傷にはなってしまいましたが、今回はまっさらな気持ちで登ることができ、初めてちゃんと山と向き合えました。少し無理してしまったという反省はあっても、そこからどうチャレンジしていくか、前に進むしかないなと。以前は落ち込むこともありましたが、今は後ろ向きの気持ちはないですね」
4回目のチャレンジ失敗も、そう振り返った栗城さん。エベレスト登山は高額資金の調達や時期的なタイミングも含めて難しさがあるが、潔く断念し、下山を決意したことについて、こう語っていた。
「やっぱり生きていないとチャレンジもできないので。今までもこれ以上行くと危険だというときは、悔しいですが下りてきました。それはエベレストだからこそです。もし登頂だけを目指すのであれば、登頂率が上がる春に行きますが、ぼくが目指しているのは、チャレンジをするということです。本当に難しい局面を乗り越えて登頂したときに、本当の成功と言えると思います」
この時、外科医からは右手親指以外の9本の指の第二関節から先を切らねばならないことを告げられていたというが、「9本失うと登山にもすごく影響しますし、自分の指は今までの登山や生活を含め支えてくれた“仲間”なので、今度は守ってあげなきゃと思います。まずは指をちゃんと治して、できたら今年の秋に再びチャレンジできたら」と、再生医療にかける思いを吐露していた。
指の治療法を模索する状況でありながらも、次の秋のエベレスト挑戦について「やはり目標がないとけがも治らないと思いますし、ぼくは秋のエベレストを登って冒険を多くの人と共有することに全てをかけて生きている人間なので…。それがなくなると、ほかに趣味もないですし(笑い)。それを目標に、山登りやトレーニングを考えていこうと思います」と意気込みを語っていた。
こだわりを見せていた秋のエベレスト登頂について、「最終的な目標ですか?」と尋ねると、こう答えが返ってきた。
「いえ、エベレストがゴールでは全然ないので。山の世界で30才といったらまだ若手ですし、秋のエベレストを登ったところからようやく、いろいろな山登りができると思います。今は『冒険の共有』を目的に中継をやっていますが、それには資金がものすごくかかりますし、登山との両立はすごく難しいんです。そのためだけに講演で全国を周ったり、スポンサー集めをしているようなものです。
『冒険の共有』の目的をよく勘違いされるんですけど、“有名になりたいから”とか“ただ中継をやりたいから”ではなくて、見ている人にも新しいチャレンジを生みたい。それが本当の目的なんです」
ひとりで山に登る理由は、「過酷さを含めて山と向き合いたいから」と語った栗城さん。「山登りを通して伝えたいことは?」と聞くと、
「その挑戦や経験、見たものを、同じようにそれぞれ人生の“見えない山”を登っている人達と共有することによって、そういう人たちの背中をポンと押したい。チャレンジする限り失敗ではないと思いますし、ぼくの経験上、挑戦すると後悔することはないんです。今、夢を否定する人がものすごく多いですよね。だから、無理だとか失敗するだとか、多くの人のそういった心の壁をとっぱらいたいというのが最終的なゴールだと思います」と語った栗城さん。