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急成長「御用聞き」ビジネスが人を変え、社会を変える

2018.06.22 11:00

 株式会社「御用聞き」の代表を務める古市盛久さん(39)の日常は、超高齢社会に突入した日本の縮図とも

 株式会社「御用聞き」の代表を務める古市盛久さん(39)の日常は、超高齢社会に突入した日本の縮図ともいえるものだ。古市さんが経営する御用聞きは、5分100円からの家事代行を行う会社だ。電球や電池の交換、宛名書きなどを請け負う。「ビンのフタを開けてほしい」という依頼が全体の1割にも及ぶという、人の小さな願いに寄り添う仕事である。

 2010年。ゼロからたったひとりで始めた新たな業界。「御用聞きって、スーパーのものを売る人?」そんなふうに思われた。

 開業から1年ほど経ったある日の夕刻、小学校低学年の女の子が、事務所に飛び込んできた。「お父さんとお母さんのけんかをやめさせて!」。少女は、手のひらの百円玉を差し出した。為す術なく立ちすくむ自分がそこにいた。

 なかなか軌道に乗らない日々。それを変えたのは、『タニタ食堂』で名を馳せた株式会社タニタの前代表取締役会長で経営コンサルタントの谷田大輔さん(76才)との出会いだった。

 谷田前会長の三男が「これからの社会は御用聞きのような役割が必要だ」と社会の課題解決について大輔さんと話していたところ、たまたまテレビに古市さんが映っていた。

 その縁で、三男が御用聞きを体験するなどして懇意に。谷田前会長は、御用聞きの会長に就任した。「会話で世の中を豊かにする」と、同会長とのコンセプト作りは半年間に及んだ。

 もう1人、古市さんにとっての“師匠”は、最高顧問である平松庚三・ライブドアホールディングス前代表取締役社長だ。

「以前から尊敬していたので、思い切ってフェイスブックのダイレクトメールに面会のお願いを出してみたら会ってもらえました」(古市さん)

 数か月ごとに事業内容を報告すると、平松さんから次の課題としてA4の紙がびっしり埋め尽くされるほどの「ダメ出し」を受けた。それをブラッシュアップしてまた報告する。柔道の乱取りを思わせる師弟の真剣勝負である。

 平松さんには「格好つけてパソコンばっかり使うな。暗算しろ」と言われた。

「パソコンはあくまでツールの1つだから、きちんと本質と向き合えという意味だととらえました」(古市さん)

◆わずか2年でひと月の稼働受注件数が4倍に

 経済界の大御所との出会いを経て、組織として磨かれた。価格設定や仕事内容の整理、担い手教育を徹底することでサービスの平準化がなされた。

 その結果、御用聞きはここ2~3年で著しい成長を遂げる。ひと月の稼働受注件数が、2015年度50件→2016年度100件→2017年度200件と、わずか2年で4倍に。事業規模が一気に大きくなり、2016年には初の黒字化が実現した。

 年内には都内全域でのサービス提供を目指す。2019年には、愛知県名古屋市をカバーすべく、すでに同市在住のパートナーが準備を開始。2020年には大阪市と、全国を御用聞きが駆けまわるのが古市さんの夢だ。

「社会のインフラは今のところ、電気、ガス、水道、通信ですが、これにいつか地域サービスが加わるような仕組みをつくりたい」と古市さんは意気込む。

 昨年辺りから、講演会に呼ばれることも増えた。参加者は福祉関係者からビジネスマン、起業家までさまざま。古市さんはそこで御用聞きのノウハウを余すところなく伝えている。

 5月24日に東京・文京区民センターで行われた「御用聞き地域包括ケア事例報告会」は、過去最高の180人が参加し大盛況だった。今回初めて後援した社会福祉法人・文京区社会福祉協議会の職員、根本真紀さんが語る。

「文京区は大学が多く、地域の活性化に学生の参画を望む声は多い。学生からの報告は地域のみなさんにとって、刺激になったのではないか」

 参加者からも、「学生の生き生きした姿に感動した」「現行の制度では受け入れてもらえない人のために、新しい支援が必要だとわかった」といった称賛の声が相次いだ。

 実際に御用聞きで有償ボランティアとして働く唐沢武尊さん(21才)は「洗濯機の脱水機が壊れて使えない」という困りごとで駆けつけたら、本来は下向きに排水溝へ入っているはずのホースが上向きになっていた。

「ぼくらからすれば簡単そうに見えても、お年寄りには気づきにくいちょっとした困りごとはたくさんあると気づかされた」(唐沢さん)

 しかし、会社の規模がどれだけ大きくなろうとも、古市さんにとって、「社会課題の解決」という事業の原点は揺るがない。

 昨年、御用聞きの力を借りて「ゴミ部屋」から脱出した都内在住の50代男性は「古市さんたちは、変わらないでほしい。彼らは普通の業者ではなく、社会の寄り添い人だと思う」と言う。

 当初、御用聞き以外に見積もりを取ったら「ゴミが3t超えたら残りは回収しない」と言われた。クレームをつけたら「普通なら50万円を超えるよ。ここまでにしたのは自分が悪いんでしょ」と心ない言葉を浴びせられた。

「あのとき御用聞きを選んでよかった。古市さんたちは、片付けながらぼくの話を聞いてくれた」と話すその男性は、御用聞きへの依頼がきっかけとなって就職活動を再開する意欲が湧き、無事に職を得た。

「彼らとの会話で元気づけられたんです」

 人を変え、社会を変える御用聞き。その未来は、きっと明るい。

※女性セブン2018年6月28日号

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