◆死後の世界から逆算して生きる
サルと同じく、視覚的に世界を把握する人間は、認識した情報を言葉に変換し、知識を外部化して、想像力で補いながら共有してきた。いまはそれが、インターネットで瞬時に共有できる。
「知識を脳の外のデータベースに頼ると、どんどん脳はしぼんでいくと思う。ぼくが恐れるのは、人間は記憶するだけじゃなく考えることもやめてしまうんじゃないかということですね」
Amazonで本を買えば、次に選ぶべき本はこれと薦められる。音楽も、レストランの選択も、集積された膨大なデータから最適解が送られてくる時代だ。
「その次には、外部化した知性が人間を操作する段階が来るかもしれない。AIができないことって何だろうと考えたとき、たぶんその中に、人間にとってすごく大切なものが含まれているんです。たとえば死後に何か世界があると思って、そこから逆算して今を生きているのは人間だけで、AIにはその発想はない。この本も、人間について考えるヒントにしてもらいたい」
サルや類人猿の社会は、一度、群れを離れると、元には戻れない。戻ろうとしても、元の仲間に攻撃されて追い出されるからだ。それに対して、〈人間はなんと許容に満ちた社会をつくってきたことか〉と山極氏は書く。いろんな集団を渡り歩くことも可能だし、〈数十年の不在もまるでなかったかのように受け入れてもらうことができる〉。