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人生100年で「生涯年金1億円」時代へ 高齢者の信用力も高まる

2018.07.12 16:00

 これまでの人生80年時代は、「貯金が3000万円あれば老後は安心」と思われていた。定年後に夫婦で時

 これまでの人生80年時代は、「貯金が3000万円あれば老後は安心」と思われていた。定年後に夫婦で時々旅行に出かけたり、仲間とゴルフや釣りなど趣味を楽しむ「ゆとりある生活」をするには月額36万円程度かかるとされる。厚労省の標準モデルでは、サラリーマン世帯(妻は専業主婦)の年金受給額は夫婦で月額約22万円。年金だけでは必要額に毎月14万円足りない。

 定年後の第二の人生をざっと20年間(65歳の年金受給開始から85歳前後まで)と考えると、3000万円の貯金があれば、不足分を貯金から取り崩しながら“豊かな老後”を送ることができる計算になる。“貯めたカネをチビチビ使う”という「貯蓄取り崩し」型の生涯プランだ。

 実際、多くの人は定年を迎えたらそうした青写真を描き、退職金のほとんどを貯金して老後に備えてきた。総務省の最新の家計調査報告で60歳以上の世帯の平均貯蓄額が2384万円(2017年平均)に達していることからもそれがわかる。

 ところが、人生100年時代に、そんな“未来年表”は成り立たない。定年後の人生が20年から40年に延びると、毎月「36万円」の生活を維持するには、年金の他に7000万円近い貯金が必要になる。2000万~3000万円の貯金があってもいわば“焼け石に水”だ。

「そんなこといっても7000万円貯めるなんて絶対無理だ。定年後は爪に火を灯すようにギリギリまで出費を切り詰め、いまある貯金を細く長くもたせるしかない」

 そう悲観的に考え、ため息をついているシニアが多いのではないか。せっかく豊かな老後を求めてまとまった老後資金を貯めたはずだったのに、「今後は、孫にあげる小遣いをケチり、七五三や進入学のお祝儀も減らそう。旅行や趣味もあきらめ、晩酌はせいぜい週1回。貯金の一部は株で運用してみようと思っていたが、そんなリスクを負うのはもってのほか。安全な定期預金に置いておくしかない」と。

 だが、それこそジリ貧の選択だ。趣味や旅行にお金が使えずに老後が暗くなるだけでは済まない。

 定年後の「未来年表」を考えると、人生が長くなるほど、まとまったカネが必要になる場面は確実に増える。自分や妻の病気や介護の出費、家のリフォームも必要になるだろう。老人ホームに入居するにも相当額のカネがかかる。いざそうなったとき、「貯金が減るから」と必要なカネを使わず、家にこもって“細く長く”貯金を大事に使うだけでは、老老介護で疲れ果て、精神的にも追い込まれていく。

「出ていくカネ」だけを数えるとどうしても悲観的になってしまう。ならば、「入ってくるカネ」に目を向けると違った景色が見えてくる。

◆1億円の「超・安定収入」

 人生100年時代は「生涯年金収入1億円」の時代になると聞いたら驚く人が多いだろう。夫婦で月額約22万円の年金を85歳まで受給すると総額は5280万円だが、100歳まで35年受給すると9240万円になる。ざっと1億円だ。

 寿命が延びる中で老後の人生を豊かに送るためには、この1億円の“年金預金”や老後貯金の使い方のコンセプトの大転換が欠かせない。

 見落としてはならないのが、高齢者を取り巻く社会環境そのものが大きく変わることだ。そこにチャンスが生まれる。相沢幸悦・埼玉学園大学経済経営学部教授が指摘する。

「日本社会では長い間、リタイアした無職の高齢者は現役サラリーマンより社会的信用が低いと見られていた。銀行はカネを貸したがらないし、賃貸住宅を借りようと思っても、高齢者に貸すのを嫌がる大家が多かった。だから、多くの国民は現役のうちに住宅ローンを組んで“終の棲家”のマイホームを買い、定年後に備えて貯金に励んできたわけです。しかし、これからは間違いなく高齢者の社会的信用が高まります」

 高齢者の武器は、なんといっても安定した年金収入だ。

「考えてみてください。現役サラリーマンはリストラされると収入がなくなりますが、高齢者は無職でも年金収入が生涯保証されます。月々の年金額は少ないものの、多くの高齢者は別にまとまった貯金も持っている。

 銀行にとってはお得意様になるし、全国的に空き家が深刻になっている時代に、賃貸住宅の大家はいつまでも“高齢者には貸さない”などとは言っていられません。むしろ高齢者は優良な借り手として重宝されるようになるでしょう。なにより、日本の個人金融資産1800兆円の53%を60代以上が持っているのです」(相沢教授)

 高齢者の社会的信用が高まると、老後の生活設計の選択肢は大きく広がる。

 家が借りやすくなれば、マイホームを「終の棲家」と考えるのではなく、定年後に賃貸に住み替え、自宅を売却してまとまった手元資金をつくるという選択が容易になる。銀行などの融資を受けやすくなれば、不意の出費が必要な時のために貯金を死ぬまで残しておく必要はない。運用も手堅いだけの定期預金ではなく、投資に回しやすくなる。

 人生100年時代には、「老後の資金」は守るものではなく、豊かな老後の可能性を広げるために「戦略的に使う」という考え方が重要になる。

 過去の年表を改竄することはできないが、「お金の未来年表」はいくらでも書き換えられる。

※週刊ポスト2018年7月20・27日号

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