芸能

俳優・秋野太作 役の大小は、役者の評価とは関係ない

俳優・秋野太作が若き頃を振り返る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、ユニークなキャラクターで映画やドラマ、演劇だけでなくバラエティでも人気の俳優・秋野太作が、たった3人しか合格しなかった俳優座の座員になったころについて語った言葉をお届けする。

 * * *
 秋野太作は一九六三年に俳優座養成所に入所、役者としてのキャリアをスタートさせる。

「僕の父は銀行員だったんだけど、戦前から剣舞をやっていて、自宅を道場にしてお弟子さんもとっていたの。それで僕も子供の頃から仕込まれて、週末になるといろんな舞台に立たされて踊っていたんですよ。

 でも、演劇をやろうとは思っていませんでした。高校を出たら働こうと思っていたから。ただ、就職するにしても将来を見通せなくて。それで自衛隊に入ろうと思って飛行機乗りを育てる学校を頑張って受けたら合格して。でも、生来『回れ右』とか『前へ倣え』とかが嫌いなんだ。それで、俺に合うか不安で。駒込から横須賀まで入学手続きに行くんだけど、駒込駅のベンチで座ったきりになって。それで、すごすご家に帰っちゃった。

 その後で日大の法科に行くことにして、校舎のある神田近くの古本屋街を歩いていた時に知ったのが新劇でした。

 新劇雑誌が目にとまって、そこに養成所の紹介があって。これが楽しそうなんだ。タイツはいて足あげて踊っていて。何より驚いたのは学校を出れば俳優さんになれるということ。

 元々、自分が何に向いているかと考えていた時に、物を取引して金儲けするのは苦手だと思ってはいたんですよ。でも、人間には興味があった。人間を見つめて、追求していくことに。

 それで『こっちだな』と思って興味をもって六本木の俳優座劇場に芝居を見に行ったら、東野英治郎さん主演で地味な芝居やっていたんだ。こういう地味な世界なら僕も仲間に入れてもらえるかと思ったのね」

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