片山:なんとなくそうなってしまうというのが重要ですね。陸軍に比べて合理的なイメージの海軍もそうです。普通、海軍が陸軍の輸送船を護衛するものだけれど、それをしたがらない。
佐藤:輸送艦の護衛なんて、海軍には下品なことだったんでしょうね。潜水艦の役割を他国と比較すると旧軍の輸送に対する考え方が分かります。ドイツの潜水艦「Uボート」は補給を断つために英国の輸送船をターゲットにしていました。でも、旧日本海軍の潜水艦が狙うのは基本的に航空母艦か戦艦。弱い輸送艦を狙うのは武士道に反する、卑怯だという美学で動いていた。
片山:物資や兵士の輸送を軽視するのも「持たざる国」の一つの特徴です。資源も物資も乏しい日本には、兵站を持って長期で戦争をするという発想がなかった。だから必要な食量や物資を現地で調達するという場当たり的な現地調達主義でアジアに展開していった。
◆外務省の現地調達主義
佐藤:実は私もその現地調達主義を体験したことがあるんですよ。1992年、私は外交官としてCSCE(現在のOSCE・欧州安全保障協力機構)サミットでヘルシンキに出張しました。たくさんの要人が訪れているからホテルが高騰して1泊8万円もする。でも、規定の宿泊費は2万数千円しか出なかった。
片山:差額は自腹ですか?
佐藤:フィンランドの日本大使館の連中が「差額は才覚でなんとかしろ。カジノもあるぞ」と言うんです。最終的にカジノで勝って、ホテルに宿泊できたからよかったのですが。本来行政法では予算措置がない出張命令は〈重大かつ明白な瑕疵がある〉から従わなくてもいいんです。でもそれを強いる雰囲気も、従わざるをえない風土もあった。