1990年代はじめ、日本を席巻したのが女優のヘアヌードブーム。宗教人類学者の植島啓司氏は、女優の樋口可南子が1991年1月に発表したヘアヌード写真集『water fruit』に大きな衝撃を受けたという。植島氏は同作についてこう語る。
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この写真集を入手する少し前、私は新聞や雑誌などメディアの仕事のほか、講演やトークショーなどで多忙を極めており、一日で数十万円の収入を得ることも珍しくありませんでした。お金に困ることはなかったものの、「これは健全ではない。社会と自分とがどこか釣り合っていない」と感じていました。
そこである時、すべての仕事をお断わりし、いったん日本を離れることにしました。ちょうど、ニューヨークの大学院大学から人類学の講師として招かれていたこともあって、アメリカへ渡ったのです。
ニューヨークでの生活に慣れてきた頃に、何の前触れもなく日本から届いた写真集が、樋口可南子さんの『water fruit』でした。出版元に勤める大学時代の後輩が送ってきてくれたのです。梱包を解いて表紙を見た瞬間に、「何だ、これは?」と衝撃を受けたのを覚えています。