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2018.08.16 11:00  マネーポストWEB

トヨタも大幅削減、日本企業特有の制度「相談役」「顧問」の悲哀

なぜ日本企業で相談役・顧問制度が蔓延ってきたのか?


 定年後、いったい自分が何をして過ごせばよいのかわからない。そんな人は少なくない。これは地位にかかわらず似たような傾向があるらしく、役員まで勤め上げた人でも同様の問題に直面している。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本企業で特有の慣習である「相談役」「顧問」制度について考察する。

 * * *
 多くの日本企業で特有の慣習となっていた「相談役」「顧問」制度を見直す動きが広がっている。たとえば、資生堂、パナソニック、富士通、伊藤忠商事、日本たばこ産業などが相談役や顧問の廃止を決めた。

 なかでも、とりわけ話題を集めたのがトヨタ自動車だ。7月1日付で約60人いた名誉会長、相談役、顧問を9人に削減したのである。

 これまでトヨタでは、役員が退任したら副社長以上は相談役を4年間、専務以下は顧問を1~2年間務めることが慣例になっていた。グループ全体で従業員が約36万5000人の巨大企業とはいえ、60人もの相談役や顧問がいて、その人事が株主総会を通っていたというのは驚きである。欧米の会社では、たとえ9人であっても株主総会を通らない。

 つまり、そもそもそういう制度があること自体がおかしいのだ。世界企業であるトヨタが日本人の役員だけ退職後も厚遇していることが知れ渡ったら、一刻も早く世界共通とするか、すべて廃止するしかないだろう。

 今回の制度見直しの動きは、経済産業省の提言などに基づいて東京証券取引所が上場企業に提出を義務付けている「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂し、任意規定ではあるが、2018年1月から相談役や顧問の氏名、役職・地位、業務内容、勤務形態・条件、任期、報酬総額などの情報開示を求めたことがきっかけだ。それで日本企業における“世界の非常識”が改善へと向かったのである。

 ここに至るまでに、この悪しき慣習が日本企業の経営を歪める事例が相次いだ。

 たとえば、2015年に発覚した東芝の不正会計事件は、相談役ら社長経験者の確執で経営が混乱した結果だった。シャープも相談役と会長の“内ゲバ”で経営が迷走し、巨額の負債を抱えて台湾の鴻海精密工業に買収された。NECも“院政”を敷いた相談役が経営に介入して混迷を深めた。富士通に至っては内部抗争の結果、元社長が「虚偽の理由で辞任を強要された」として会社を訴える事態になった。

「老人のケンカは幼稚園児のケンカよりも始末が悪い」と言った東芝の元役員がいるが、まさにその通りだ。

 なぜ、日本企業で相談役・顧問制度が蔓延ってきたのか? 終身雇用(ライフタイム・エンプロイメント)の名残で、会社人間でやってきた人たちが自分の人生を会社と同一に考えてしまっているからだ。逆に言えば、会社以外の自分の人生が考えられないのだ。

 つまり、出世して経営者にまでなった人たちでも、哀しいかな「ライフプラン」そのものがないのである。だから役員を退いても「秘書」「黒塗りの車」「執務室」や「ゴルフ場の法人会員権」「経済団体などの役職」に固執し、相談役や顧問として居座るのだ。実際、完全にリタイアした後は所在ない日々を送っている寂しい人が非常に多い。

 たとえば、財閥グループの役員OB向けサロンを覗くと、OB同士が食事をしたり碁を指したりしている。行くところがないと落ち着かないのだろう。遊びなのに背広姿の人が多いのも目につく。この光景を見て、役員を退職後も厚遇する羨ましい制度だと思うか、そういうエリート意識を捨てられないのが問題だと思うか、それがいま問われているのだ。

※週刊ポスト2018年8月17・24日号

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