手術は一般的に、胸部中央にある胸骨を縦に切開する、胸骨正中切開法が行なわれる。これは喉元からみぞおちまで約20センチの切開が必要で、出血が多く、また骨や血管、神経を切るので痛みがあり、患者にとって負担が大きかった。
そこで低侵襲な治療として今年4月、手術支援ロボット・ダヴィンチによる僧帽弁形成術が保険適用になった。ダヴィンチは小さな創(きず=切り口)から内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、医師が3Dモニターを通して術野を見ながら、実際に鉗子などの手術用具を動かす。創は1~2センチのものが4~5か所だけで、出血や痛みが少ない。3Dカメラのズーム機能を使えば、術野を拡大することが可能。しかもロボットアームには関節が付いており、細かい動作に対応可能だ。
ただし、使いこなすためには医師の経験と熟練度が求められる。
「リウマチ性の弁膜症を除き、術前の検査で弁形成が可能と判断した場合、すべての患者に対して弁形成を行なっています。僧帽弁は心臓の奥深いところにあり、その下に弁下組織の筋肉があります。弁形成術は患者の弁や、その周囲の筋肉などの形を整え、弁の機能を回復させます。患者の弁を使うので、人工弁置換術に比べ、感染症や血栓症のリスクが低いというメリットがあります」(渡邊総長)
弁形成か、人工弁置換かの選択は事前検査で弁の状態を見ながら判断する。症状が進行し、弁の形状が変形しているなど弁形成術では治すのが難しい場合には、人工弁置換術が選択される。弁形成の術後3~6か月程度は抗凝固剤を服用するが、その後は不要となる。自分の心膜を使い、大動脈弁を作る大動脈弁形成術も始まっている。
●取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2018年9月7日号