日常のちょっとした変化が重大な疾患の兆候になっていることは少なくない。嗅覚機能が低下する「嗅覚障害」もその1つ。近年の研究では、認知症の初期症状はまず「匂い」に表れると指摘されている。たとえば、腐った食べ物の臭いが分からなかったり、ガス漏れに気付かなかったりする場合は様々なトラブルを招きかねない。しかし、危険性がある一方で、新たな“可能性”も生まれてくる。星薬科大学先端生命科学研究所特任教授の塩田清二氏は言う。
「認知症の初期症状として嗅覚障害が生じるということは、逆に考えれば、脳が匂いの情報を常にキャッチできるようトレーニングすれば、認知症の進行を抑えられる可能性があるということです」(塩田氏)
香りの刺激で脳の神経細胞の血流を増加させることで、脳が活性化するという考え方だ。そこで塩田氏が注目したのが「お香(アロマ)」だ。
「グレープフルーツやレモングラスなど柑橘系のアロマを嗅ぐと、交感神経が刺激されて脳血管が拡張し、大脳皮質の前頭葉の内側領域の血流が増えます。実際に認知症患者で調査したところ、柑橘系の香りを1日2時間連続して嗅ぐと、患者の精神症状や不眠などの認知症の周辺症状が緩和されました」(塩田氏)
手軽に実践するには「アロママスク」の使用が効果的だ。