ビジネス

「就活ルール廃止」に専門家が異論「若者の失業率高まる」

大きな変更は若者にとって過酷になる懸念も

 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)が、「就活ルール廃止」に言及したことを受けて、大学側と経団連、政府が新たなルール策定に向けて協議に入る。だが、現在の「新卒採用」という雇用システムに手をつけることは、慎重であるべきだと主張するのは、『学歴フィルター』(小学館新書)の著書がある就活コンサルタント・福島直樹氏だ。

 * * *
 9月3日、経団連の中西宏明会長は2021年春に卒業予定の学生から、採用活動において面接の解禁時期などを定めた「採用選考に関する指針」(就活ルール)を廃止する意向を表明した。これについては麻生太郎・財務相が「一考に値する」と発言するなど、閣僚からも一定の理解を示すコメントが出されている。

 また、中西会長は「個人的な意見」と断りながらも、「時期を経団連が決める必要性があるのか」とも述べ、新卒採用の完全自由化の可能性を示唆した。経団連は、最終的に新卒採用、ひいては日本的雇用システムを廃止したいと考えている。実際に中西会長は、会見でこう述べている。

「終身雇用、新卒一括採用をはじめとするこれまでのやり方では成り立たなくなっていると感じている。各社の状況に応じた方法があるはずであり、企業ごとに違いがあってしかるべきだろう」

 多くの企業がグローバルな競争にさらされるなか、新卒採用をはじめとする終身雇用、日本的雇用システムが難しい状況に来ていることはわかる。企業側の日本的雇用システムから脱却しようという傾向は止められないだろう。一方で、新卒採用という雇用システムが崩れたとき、日本社会にはどのような影響が及ぶのだろうか。

 まず次のデータを見てほしい。若者の失業率を示した数字だ(15~24歳、Youth unemployment rate、OECD2017)。

・日本4.7%
・ドイツ6.8%
・アメリカ9.2%
・カナダ11.6%
・イギリス12.1%
・ルクセンブルク15.4%
・フランス22.3%
・イタリア34.8%
・ギリシア43.6%

 経済状況の悪化が著しいギリシアはともかくとして、G7でも日本以外は多くの国が2桁の失業率だ。EUでは優等生のはずのドイツでも日本より高い。反対に日本の若者の失業率はOECDで最も低い。しかも長年にわたり1位を維持している。これに貢献している理由の1つは少子化だろう。諸外国より若者が少なく、相対的に職を得やすいからだ。

 だが、欧米の若者の失業率は日本より高い理由はそれだけではない。

 欧米には日本のような新卒採用という仕組みがないからだ。新卒者は就職で若手社会人と競合する。仕事未経験の新卒者は、当然、社会人に負けてしまう。

 一方、日本では新卒採用という仕組みにより、仕事未経験の若者がスムーズに仕事に移行できる。例えば、新人研修、OJTなどは、未経験者を前提とした社員教育制度だが、欧米にはこのようなものは存在しない。欧米の社員は仕事で必要なスキルを大学やビジネススクールなど、社外で学ぶことが前提となっている。つまり欧米方式は若者に過酷な仕組みなのである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン