◆「Mさん、ステキ~」は気持ちを上げる特効薬

 こうして母は私と一緒に美容院に通うようになった。顔なじみの美容師さんに歓待され、白髪を染めてもらい、すっきりカットしてもらう。でもそれだけではない。母の日常にはいない、美容師さんたちとのキャピキャピした会話が、大きな刺激なのだ。

 母の担当美容師さんは、ベビーフェイスの色白の男性。ある時、短髪をミルクティー色に染めた彼を見て、「その髪、似合うじゃない!」と母は大絶賛。認知症になってからの母は躊躇なく話しかける。

「いや~Mさん(母)もステキですよ。今日染めたカラー、ぼくの思ったとおりだ! ブローしたらツヤが出て、後ろ姿はもうJKだな~」と美容師さんも返してくれる。

 そして母が同じ話を繰り返しても、初めて聞くように対応してくれるのも助かる。認知症のことも伝えてはいるが、毎日たくさんのお客さんと話す彼らにとっては、介護家族のような苦痛もないのだろう。

 美容院は女性にとって束の間の夢時間。美容師さんとの会話は最高に気分が上がる。そして母のその高揚感は、もう前日から始まるのだ。

「明日、美容院の予約が入っているから、迎えに行くね」と電話をすると、声が弾む。
「あら大変! 今夜は髪を洗わなきゃ。楽しみだね~」

 このワクワクが母には食事と同じくらい大切だ。だからこそ、多少送迎は手間だが、美容院通いを続けている。

※女性セブン2018年9月20日号

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