別れ際に彼女は、こう漏らした。
「あそこにいる義父や義母は、幇助できない。私には近すぎるから」
他人の自殺幇助は行えて、自らの身内に対してはそれを行えない。その心は理解できる。ただ、そうした感情面で安楽死の是非が判断されるとしたら、それは制度としては危ういのではないか。同書では実際に彼女への反論を書いた。
携帯を取り出した彼女は、リビングにいた義母を台所に呼んだ。『安楽死を遂げるまで』を手に持ち、私の横に小柄な体を寄せてきた。義母に撮ってもらった写真を確認すると、彼女は「ありがとう」と微笑み、私の肩に手を回した。
やるせない思いを宿しながら、私も笑顔を作った。取材開始当初、彼女からこう告げられた。色々な人の意見を聞いた上で、最終的には、あなた自身が判断しなさい。
もし彼女が、この作品を読み異論を唱えようとも、きっと分かってくれる。そう信じることにした。
【PROFILE】みやした・よういち/1976年、長野県生まれ。ウエスト・バージニア州立大学卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。主な著書に『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』など。
※SAPIO 2018年9・10月号