実際にグローバルな活動を展開しているTWICEは、日本人メンバー3名のほかに台湾出身のツゥイを加入させています。世界人口の10%を占める中国文化への目配りに他なりません。これはK-POPグループ最新の傾向で、PRISTIN、宇宙少女、LOONA なども中華系メンバーを擁しています。なにしろ中華人民共和国は人口約14億人、日常的に中国語を話す人口を世界で探すと、もっと多くなります。この巨大市場を制することは、リアルに「世界のてっぺん」を目指すために不可欠な要素だからです。
実は『PRODUCE48』参加者にはワン・イロンという、超絶美貌と中国舞踊で培った柔軟性で話題になった中国籍の練習生もいたのです。しかし、中国資本の入った大手事務所YUEHUAエンターテインメント(先述の宇宙少女の所属事務所)であったため、放送時間が大手事務所所属にだけ割かれているのではないかという、ファンの排斥運動「ウィスプル排除」(※ウィエファ、スターシップ、ストーンミュージック、プレディスの四社の頭文字を取った造語)の声に押されたこともあって、番組では早々に脱落し、TWICEツゥイのようにプロデューサー判断で復活することもありませんでした。
実は、PRODUCEシリーズには他にも、注目の練習生を番組側が「推す」“悪魔の編集”あるいは“PDピック”という演出技法があると取り沙汰されており、その演出の妙で番組を盛り上げてきました。そうした、目に見えない“影のプロデュース”手法が、以前のように機能していたら、メンバーの国籍はもっとバラエティに富んだ「世界水準」の構成になっていたのではないかと思います。
“悪魔の編集”と“PDピック”とは、このサバイバルオーディションシリーズを生み出した、あるスタープロデューサーの辣腕を象徴する代名詞でもありました。
◆「悪魔の編集」と「PDピック」
K-POP界に大旋風を巻き起こしたサバイバルオーディション番組『PRODUCE101』を立ち上げたのは、大人気ラップバトル番組『SHOW ME THE MONEY』(2012年~)の立案者として名高い局長(当時)兼プロデューサー、ハン・ドンチョル氏です。
ヒップホップならではの“罵倒芸”をテレビのリアリティ番組に仕立てた演出は、業界や通のファンの間で大いに話題になりました。ドンチョル氏の非凡さはそれにとどまらず、過激さと殺伐さで売った番組の方法論を、あえて正反対のアイドル畑に応用し、後に「プデュ」という愛称でファンに親しまれるサバイバルオーディション番組、PRODUCEシリーズを生み出したことで一般のファンにも広く知れ渡ることになりました。
『PRODUCE101』第一シーズン(2016年)では、大手有名事務所JYPの秘蔵っ子ながら、TWICEの最終選考に漏れたチョン・ソミと、弱小事務所所属のキム・セジョンを大フィーチュアし、二人のライバルによる切磋琢磨、そして個性ある他の練習生たちに適宜フォーカスを当てることで、彼女たちの奮闘ぶりをまるで、大河ドラマのように描いたのです。
しかし、番組と出演する練習生たちの人気が上昇すると、こうした物語的な編集を、一部のファンが“悪魔の編集”と呼んで批判し始めました。練習生全員に公平な(放送)時間配分をしていない、実際の現場で起きた時系列を放送では操作している、意味深な表情アップを挟んで別の意味を付けている──これら「恣意的な編集」で練習生たちの運命を左右するのは許せない、といった議論がSNSなどで盛んに交わされました。また、番組で採用されるシーンや人物に明確な基準がないため、“プロデューサーの選択”(ピック)という意味の“PDピック”という言葉も生れました。
こうした批判に対して、ドンチョル氏はあるインタビューでこう答えています。
「選抜の結果について、出番について色々と論争が多かった。でも、私はこれが本物だと思う。若者たちが絶対にやりたいことを実現させるため、歯を食いしばって走るのは当然のこと。すべてのことに死に物狂いになって、他人を踏みにじったり、傷ついて泣いたりする姿こそ、彼女たちの本当の姿だ。そんな中で、さらに頑張ってさらに努力する候補者にカメラを当てるしかなかった。視聴者たちも実力だけを基準に投票しているわけではない。実力が足りなくても、足りなかった実力から大きく成長した候補に関心が行くのが筋だ」