患者が楽な検査にしたという話だが、結果として、誤診が起きた。クリニックの経営を優先したご都合主義に思える。早くに見つかっていれば手術も選択肢になっただろう。医師は、胃がんリスクが高いことを轟さんに伝えなかった。
「“がんになる確率が高いですよ”なんてあんまり言って、がんノイローゼになってもいけませんので」
この言葉を伝えると、轟さんは静かに語った。
「分かっていたなら教えてほしかった。スキルス胃がんは、一刻も早い治療が重要ですから。検査には患者の命がかかっていることを自覚してもらいたいです」
がんに限らず、「重大な病気かもしれない」と医師に告げられたら、患者の側に正確を期すためにセカンドオピニオンを取ろうという考えも出てくる。しかし、「異常はありません」といわれて、念のため他の医師の所見も聞こうと考える人は、ほとんどいないだろう。それゆえ、「見逃し誤診」は深刻な事態をもたらす。人生設計も大きく変わる。
筆者は他にも、がんを見逃され、「もっと早く分かっていれば……」と悔やむ患者や家族の声を聞いてきた。
轟夫妻には、リタイア後にキャンピングカーで全国を旅するという夢があったが、それは叶わなかった。