ライフ

親に放置されてきた非行少年 靴下を履かせてもらい改心

養護教諭が回想、「非行少年」の涙(イラスト/ico)

 児童虐待や育児放棄といった問題が深刻化する昨今。大人からの愛情を受けてこなかったがゆえに非行に走るということは少なくない。公立中学の教員をしているという58才の女性が、ある教え子のケースを紹介する。

 * * *
 公立中学校の養護教諭をしています。多くの子供たちと接してきましたが、どうしても忘れられない子がいます。

 それは、今から10年ほど前のこと。私は、都内でも貧困層の多い地域にある中学校に配属されました。

 生徒たちの多くは、大人から怒鳴られ殴られて育っていました。つまり彼らにとって、「大人=敵」だったんです。ですから、教師を見かけたら、攻撃してくる子たちばかり。

 なかでもひどかったのは、不良グループに入っていた14才の男の子でした。小学校中学年程度の身長しかなく、ガリガリにやせているのに、気に入らないことがあると見境なく暴力をふるう。あれほど小さい体のどこにそんなエネルギーがあるのか、本当に不思議でした。

 そんなある日、彼が校内でリンチされ、肋骨を折られたんです。救急車が来るまで、保健室で私と待機していました。彼を見ると、真冬にもかかわらず、靴下を履いておらず、かかとはひび割れて血が出ていました。

 私は黙って、彼のかかとにクリームを塗りました。彼は骨折の苦痛に耐えつつ、「何すんだ、やめろ」と、抵抗していましたが、私が予備の靴下を履かせると、「こんなこと…、してもらったのは初めてだ」と、涙を流したのです。聞けば、両親に放置されて育ち、食べ物といえば給食だけ。背が低く、キレやすいのは、栄養不足のせいだったのです。

 私は彼が退院してから卒業するまで、私の給食を分けてあげ、話し相手になりました。彼はその後、夜間高校に進学。入学当初は不真面目で留年はしたもののなんとか卒業し、就職したと風の噂で聞きました。

 中学を卒業してから5年後、スーツを着た彼が、突然私を訪ねてきました。

「やっと正社員になったので、初任給で買いました」

 そう言って差し出してくれたのは、靴下のセットでした。

「先生がいたから、今のぼくがあります」

 私のしたことは、本当にささやかなこと。むしろ、この学校に赴任して以来、なくしてしまった養護教諭としての自信を、彼が取り戻してくれました。子供の非行は、たいてい大人に起因します。定年まであと数年、少しでも多くの子供たちの心に触れられればと思っています。

※女性セブン2018年10月18日号

関連キーワード

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン