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「鉄道版インフラドクター」は鉄道保守の救世主になれるか?

2018.10.12 07:00

 日本の鉄道が開業してから146年、事故を防ぐため、保守点検は欠かさない。しかし、短い距離でも時間、

 日本の鉄道が開業してから146年、事故を防ぐため、保守点検は欠かさない。しかし、短い距離でも時間、手間、人手がかかるほか、構造物の老朽化、少子高齢化、人口減少によって人手不足に陥る恐れがある。

 そうしたなかで鉄道保守の救世主として期待されているのが「鉄道版インフラドクター」だ。

 もともとインフラドクターは、首都高速のインフラ維持管理を目的として開発されたものだ。首都高速では、構造物の経年に加え厳しい財政状況も相まって、インフラの維持管理に課題が生じていた。そこで、首都高技術、エリジオン、朝日航洋がそれぞれの持ち味を融合したインフラドクターを3年かけて開発し、2016年夏に実用化された。

 インフラドクターは、GIS(地理情報システム)と3次元点群データーを活用し、道路や構造物の維持管理を支援するもので、業務の省力化、高度化、効率化を実現した。首都高速道路によると、30~40日間かかっていた作業が2~3日間で済むようになったという。

 屋根上の前方にはビデオカメラ、後方には360度の全方位カメラ(500万画素×6台)、世界最大級のレーザー計測機を2台装備した(レーザーは光らない)。後者について、1台の照射数は1秒間に100万発。インフラドクターは2台なので、1秒間に200万発を放つ。これにより、1度に6方向の動画が撮影できる。

 また、レーザー計測機を搭載することで、3次元点群データーの取得、異常箇所の早期発見や、構造物の3次元図面の作成もできる。

 この技術を鉄道向けに応用して、東京急行電鉄(以下、東急)、伊豆急行、首都高速道路、首都高技術が共同開発したものが「鉄道版インフラドクター」で、先日、伊豆高原輸送管理センターで実施された実証実験の様子も報道公開されている。

 東急事業開発室プロジェクト推進室プロジェクトチームの岩瀬祐人氏によると、先端技術を使った鉄道保守の効率化を検討したところ、首都高速側からインフラドクターを紹介され、それを見て“鉄道保守の効率化につながるのではないか”と考え、伊豆急行や東急線で実証実験を実施することになったという。

◆伊豆急行での実証実験の様子

 その実証実験がどのようなものだったか、ご紹介しよう。実施されたのは、伊豆急行線(伊東―伊豆急下田間45.7キロ)で、当日の0時30分から4時30分まで。

 鉄道路線での計測に際し、トラックにインフラドクターを載せ、伊豆急下田駅まで運んだあと、自走で保守用車両の台車に移り、ロープなどで固定したのち、モーターカーで牽引する。鉄道系はトンネルが多いため、LEDライトが12台装備された。

 通常、トンネル内の保守作業は、作業員が目視のほか、打音検査といい、作業員がトンネルをハンマーでたたき、その音によって異常を検知しているが、人手と時間を要する。前出・岩瀬氏によると、鉄道版インフラドクターを導入することで、人件費の削減や作業のスピードアップが考えられるという。

 また、図面や検査の記録、修理の記録など別々の台帳で管理しているが、インフラドクターでは一元的な管理が可能になるため、事務作業の効率化も期待されている。

 これまでの保守作業では、トンネルの打音検査は1日1キロ未満が限度で、全線31か所のトンネルを検査するのに十数日も要する。

 一方で、鉄道版インフラドクターの実証実験では、伊豆急下田―伊豆高原間29.8キロを2時間で走破(伊豆急行の規定により、保守用車両の本線上は30km/h、駅構内は10 km/hで走行)。その後、映像や画像の解析を行ない、問題のあるところを抽出し、当該箇所を打音検査で確認するという。

 従来は作業員の目視により、疑わしき箇所に打音検査をしていたが、鉄道版インフラドクターの導入により、その負担が大幅に軽減されるのは間違いないだろう。なお、計測中に落石などの異常が見つかった場合、すぐにメンテナンス部隊が取り掛かれる態勢をとっているという。

◆地下鉄や中小私鉄で導入できれば救世主になり得る

 伊豆急行での実証実験の後は、東急線内でも同様の実験を行なう予定だ。ただ、東急には『TOQ i』という総合検測車が存在する。

 その違いを岩瀬氏に伺ったところ、現状、鉄道版インフラドクターは架線の通電状態を確認することができないという(蛇足ながら、深夜の保守点検は饋電停止後に行なわれることが多い)。

 そうした中で東急は、将来的には『TOQ i』と鉄道版インフラドクターを併用する可能性もあるという。岩瀬氏は検討中と断りを入れたうえで、「『TOQ i』にレーザー計測機を取りつけるという考え方もあると思います」と述べた。

 東急によると、鉄道版インフラドクターは空港施設等での活用を検討しているほか、ほかの鉄道事業者へ販売するなど、事業化も検討しているという。

 鉄道版インフラドクターにうってつけなのは、地下鉄や中小私鉄だろう。

 東京メトロを例に挙げると、1路線につき1年間かけてトンネルの打音検査が行なわれている。終電から初電までのわずかな時間に検査を行なうため、1日に検査できる距離は約300メートル。もし、鉄道版インフラドクターを導入すれば、行程の短縮が考えられる。

 また、鉄道版インフラドクターに車輪を装備し、“軌陸車仕様”にすれば、保守用車両のない中小私鉄でも容易に使えるだろう。

 鉄道版インフラドクターは、“鉄道保守の救世主”になりうる存在だ。今後は車両の増備や改良など、普及と実用化に期待したい。

●取材・文:岸田法眼(レイルウェイ・ライター)

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