来るべき超高齢社会において、人生の終盤をどう過ごすかは誰もが気になるテーマだ。それは中国人とて同じ。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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日本と同じように、高齢化の深刻な足音がひたひたと中国社会に迫ってきている。高齢化のスピードは日本以上に速いとの予測もあるなか、それを象徴するようなある事件の裁判が人々の関心を集めた。
共産主義青年団の機関紙『中国青年報』が報じた記事のタイトルは、〈老いた父を家中で孤独死させた五人の子女に刑罰 政府はこの事件の顛末をCD資料として全県住民に見せた〉である。
四川省綿陽市平武県の一軒の農家が舞台となった。80歳の老人には子供が5人いたが、それぞれ出稼ぎなどで家を空けていた。
老人は2016年から2017年にかけて6度入院したというが、子供たちはここにもほとんど顔をださなかったという。
すでに親子関係は崩れていたということになるが、そのこともあって老人は、一度、子供たちを相手に「扶養の義務を履行させるための法的手段」を地元の法律事務所を訪れて相談していたとも伝えられる。
つまり孤独死という悲劇は、想定されるべく環境であったのだろう。
さて、老人の死後、法廷に立たされた5人の子供たちが問われたのは扶養の義務違反であり、また遺棄罪であった。懲役2年が言い渡され、あるものは即日服役となり、あるものは執行猶予2年となった。
ちなみに遺棄罪は刑法261条に定められたもので、5年以下の懲役となる。日本にも同じく遺棄罪はあり、生存にかかわる遺棄の場合は、はやり5年以下となっている。
それにしても中国らしいのは、ここからの展開である。地元政府がこの事件を資料CDとしてまとめ、県の住民を集めて上映会を開いたというのだ。プライバシーの問題など、どうでもいいのだろう。ただ、この政府の行動からは地方にとどまらない、中国社会全体に通じる危機感が読み取れる。
記事のなかでは、子供からの支援が受けられない老人の問題に取り組む専門家の話が紹介されているのだが、それによればこの平武県のケースは決して珍しいものではないというのだ。
まさに金の切れ目が縁の切れ目。親子といえども厳しい現実は迫ってきているということなのか。