• TOP
  • コラム
  • 「ハズキルーペ」CMに広告のプロが「負けた」と脱帽するワケ

コラム

2018.11.03 16:00  マネーポストWEB

「ハズキルーペ」CMに広告のプロが「負けた」と脱帽するワケ

渡辺謙が怒りをぶつけるハズキルーペのCM。渡辺の提案をもとに、CMでの台詞はすべて松村会長が考案したという

 昨年来のCM界における話題作と言えば、なんといっても「ハズキルーペ」だろう。怒り散らす渡辺謙が登場したかと思えば、菊川怜が「ハズキルーペ、大好き!」とハートマークを作る。今度は武井咲が『黒革の手帳』(テレビ朝日系)を連想させるシチュエーションで出演。小泉孝太郎など新たなキャストも続々登場している。この話題のCMには広告代理店関係者も大きな関心を寄せているという。広告代理店出身でネットニュース編集者の中川淳一郎氏が解説する。

 * * *
 渡辺謙と菊川怜が登場するバージョンのCMは、ハズキルーペの松村謙三会長が広告代理店から出てきた案を却下し、結局自分で作ったと明かしました。元々はミラノで渡辺がカッコよく登場する案だったようですが、女性セブン11月15日号のインタビューではこう語っています。

「まずは、商品を知ってもらうことが第一。しかし、CMクリエイターは商品を売ることよりも、自分の作品を作ろうとして、見当違いな企画を持ってくることが多いんです。“ミラノの駅から始まって…”とか“お殿様にハズキルーペを献上して…”とか(笑い)。こちらは60秒のCMの宣伝費に100億円かけていますから、1秒2億ですよ。ミラノの風景なんか無駄に見せるくらいなら、自分でやるよ!って」

 広告代理店のクリエイターの中には、CMのことを「作品」と言う人もいます。カンヌ国際広告賞を狙うことばかり考えている人もいる。そんな人たちからすれば、ひたすら商品紹介に徹するような広告は「ダサい」の一言で片づけられます。家電量販店の商品名&価格連呼広告や、とにかく商品パンフレットの内容を読み続ける生命保険会社のCMなんかがその好例でしょう。

 ハズキルーペのCMについても同じです。とはいえ、あのCMを見ているとハズキルーペに関して伝えたかったことが、非常によく分かります。

・とにかく色々なものが拡大される
・男も女も、老いも若いも使える
・頑丈
・レストランやクラブ、プレゼンの舞台でも違和感がなく使えるおしゃれさがある
・日本製で品質が高い
・サングラスバージョンもある
・複数の色がある
・仕事にも、おしゃれにも有効である

 一切この仕事にかかわっていない一視聴者であっても、これらのメッセージが明確に伝わっているわけで、これは効果が高いCMと言って良いでしょう。あまりにも“ベタ”な展開が続き、挙句の果てには菊川怜が尻でハズキルーペを踏み、「キャッ!」です。次のバージョンではホステスが次々と尻で踏んでいきますが、これは前バージョンで好評だった演出をさらにくどくしたことに他ならない。

 実はこのCM、広告代理店の人にとって脅威になっているというのです。なぜでしょうか。30代の営業担当はこう語ります。

「自分らよりもクライアントの方が本来は商品への理解度は深いのですが、社会にそのメッセージを伝えるには我々のような第三者が入り、より一般化し、商品を押し付けられたと感じさせないよう、社会がより受け入れやすいようにチューンナップするというのが自分たちの仕事だと考えています。でも、ハズキルーペの場合は、あそこまでコテコテに商品の特徴を伝えまくっているのに、あの演出により人々の話題にのぼる。

 正直あのCMはダサいです。でも、そのダサさを一流の役者が真剣に演じることにより、一つの見事なエンターテインメントに昇華させました。あれをCM制作のプロではない会長がやってしまったことにより、我々は“負けた”と思ってしまったのです」

 松村会長の商品にかける“思い”と、冒頭のインタビューに見られるコスパ意識がどんなクリエイターにも考えがつかなかった画期的なCMを生んだのでした。とはいっても、今後このやり方を各社がマネしたとしても、「ハズキルーペのCMっぽい」としか言われなくなってしまうことでしょう。ソフトバンクモバイルのCMに菊川怜が登場し、スマホを尻で踏んで「キャッ!」とやり、「だーい好き」とやらせるところまではオマージュとしてスマートですが、これも一回限りしか使えないであろう高等な技でしょう。

関連記事

トピックス