【著者に聞け】鳥飼茜さん/『漫画みたいな恋ください』/筑摩書房/1620円
【本の内容】
鳥飼さんは「あとがき」にこう綴る。〈恋愛は、甘いお菓子ではなくいつも闘いだった。それは人から見て羨ましがられるようなものではなかったと思う〉。本書には、2018年4月から7月に書いた日記が収録されている。〈彼氏〉とのこと、元夫との間にいる小学4年生の〈息子〉とのこと、仕事のこと…どれもこれもただ順調ではなく、忙しい生活の中、自分の奥底の気持ちを抉り出し、苦しみ、悲しみ、迷い、怒りなど、真摯に言葉にしている。
9月25日、鳥飼さんは結婚を発表した。相手は『ソラニン』『おやすみプンプン』などで知られる人気漫画家の浅野いにおさんだ。本書には、彼氏(浅野さん)との恋愛を中心に、元夫との間にいる息子や仕事の話題など、私生活の葛藤や苦闘が日記形式で描かれている。
「きっかけは、彼と喧嘩して悩んでいたときに、書籍の編集さんに日記を書くといいんじゃないかとすすめられたからです。パソコンを持たない私は、その日からスマホで日記をつけ始めました。当時は結婚するとは思っていなかったし、日常生活で気づいたことを記していきました」
これまで漫画で、男女の性差から生じる衝突や感情を、目を背けたくなるほど生々しく表現してきた。その作風は文章でも変わらない。文中では「これまでに、結婚生活を含め男性と2年以上つきあえたことがない」と告白。つきあって1年2か月になる彼と喧嘩し、別れを意識するところから日記は始まる。夜明けまで続いた喧嘩や、漫画家として才能あふれる彼への嫉妬心などが、内省的かつ赤裸々に吐露されている。
「これまでずっと、自身の思いを言葉にして、漫画という形で人目に触れさせてきました。その意味では漫画も日記も同じ。私生活を表現することに抵抗はありませんでした。ただ、ここまで恋愛中心で等身大の喧嘩や心のすれ違いを書いた、恥ずかしい内容になるとは思ってなかったですね」
描くのは、少女漫画のようなさわやかな恋ではない。自分自身をとことん突き詰め、相手との関係を掘り下げる筆力に、読み手もぐいと引き込まれ、心が痛くなる。
「私は過剰なくらい、一生懸命に生きているんです。彼や子供との関係がうまくいかないとき、自分のどこが駄目で何が伝わらなかったのか、相手の気持ちはどうだったのかを、突き詰めて考える癖があります。言葉にする過程は苦しかったですが、脳から快楽物質も出ていましたね。私に起きる出来事をどう乗り越えるかを読者に読んでほしいと思うと、楽しくもありました」
この「日記」は生き方指南書ではない。だが、人間関係に疲弊した現代人の生きるヒントが散りばめられている。
取材・構成/戸田梨恵
※女性セブン2018年11月15日号