音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、かつての古今亭志ん朝と柳家小三治のように、異なる持ち味で落語の真髄を伝え双璧をなす三遊亭兼好と桃月庵白酒について、お届けする。
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吉原の若い衆が通りがかりの男の「茶屋に貸してある金を取りに来た。先に遊ばせれば明朝手紙を書いて金を届けさせる」という言葉を真に受けて登楼させるが、男は翌朝「自分で金を取りに行くから一緒に来てくれ」と言い出す。若い衆は「吉原の中なら」と付いていくが、吉原の外を連れ回される破目に……。
初代柳家小せんが完成させた型を志ん生、圓生が継承した廓噺『付き馬』。客が早桶屋の「おじさん」に若い衆のことを「兄が腫れの病で亡くなって図抜け大一番小判型の早桶が必要な男」だと偽って置き去りにした後の、若い衆と早桶屋の「噛み合ってしまう会話」の可笑しさもさることながら、何のかんのと饒舌に語りながら若い衆を引っ張り回す男の「口の上手さ」にこそ、この落語の真髄がある。ポンポンとリズミカルにまくし立てて有無を言わせず丸め込んでしまう古今亭志ん朝、フワフワと「ただ何となく」相手を逆らわせない雰囲気を醸し出す柳家小三治。彼らはまさに双璧だった。
10月15日に深川江戸資料館で三遊亭兼好の『付き馬』を、翌16日には成城ホールで桃月庵白酒の『付き馬』を、立て続けに観た。どちらも絶品、今ではこの2人が双璧だろう。