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2018.11.26 07:00  マネーポストWEB

日産経営陣は「独裁者ゴーン」とこう戦った クーデター全内幕

クーデターはいかにして実行されたか(カルロス・ゴーン容疑者。写真:時事通信フォト)


 絶対的な権力者──カルロス・ゴーン容疑者(64)は、社内でそう形容するしかない地位を築いていた。その不正を暴くことを決めた経営陣の覚悟は、並大抵のものではなかった。失敗すれば85年の歴史を持つ「日産自動車」の存続さえ危うくなる。玉虫色の決着はない。突然に見えた逮捕劇の裏で、周到な準備が進められていた。

◆ゴーンの「元右腕」の告白

 ゴーンに“告発”を察知されてはならない──そんな危機感から日産の経営幹部たちは、およそ8か月にわたり、水も漏らさぬ情報管理を行なっていた。

「私もニュース以上のことは、本当に何も知らされていないんですよ」

 インターホン越しにそう話したのは、日産の元最高幹部である小枝至氏(77)だ。ゴーン氏が初めて仏ルノーから日産に送り込まれた1999年当時の副社長で、2兆円にものぼる有利子負債を抱える経営危機からの脱却を目指した“初期ゴーン体制”の最高幹部である。

 2003年には会長に就任し、「現在の西川廣人・社長を評価し、引き上げた」(経済部記者)といわれる。現在は相談役からも退いているとはいえ、「社の命運を左右する重大事案は、経営トップが報告・相談して当然の超大物OB」(同前)だが、11月19日の“逮捕劇”について、何も知らされていなかったというのだ。

 ただ、逮捕劇の裏側を知れば知るほど、それも不思議ではなくなる。

“ゴーン会長が不正な資金工作をしている”──最初に内部通報があったのは今年3月だとされる。

「絶大な権力を握るゴーン氏の不正を暴くのだから、“電撃戦”以外の選択肢はなかった。社長のほかには、法務関連の担当執行役員やアドバイスをする弁護士くらいにしか、情報は共有されていない。19日の臨時会見で西川社長は曖昧な説明で濁していたが、内部調査にあたってはゴーン氏本人への聞き取りを行なわず、先に東京地検特捜部に情報提供をしたとみられている」(別の経済部記者)

 捜査に協力すれば刑事処分が減免される「司法取引」が6月に導入されたことも、経営陣の決断を後押しした。結果、ゴーン容疑者は、2010~2014年度までの5年間に有価証券報告書の自身の報酬を実際より約50億円過少に記載した疑いで逮捕された。

 膿を出すといえば聞こえはいいが、それは自ら“恥部”を晒すということでもある。残った日産の経営陣にも返り血を浴びる覚悟が必要だった。

「積み上がった長年の不正に対し今後、株主からの訴訟などで責任を問われかねない」(同前)

 それでも今、実行に移す必要があった。

◆フランス企業にはならない

 日産側にとって、このタイミングの「Xデー」は大きな意味があった。ゴーン容疑者は日産だけなく、アライアンス(提携)を結ぶ仏ルノーと三菱自動車の経営トップの立場にもあった。ジャーナリストの伊藤博敏氏が言う。

「欧州メディアでは、ゴーン容疑者が『ルノーと日産の経営統合』を計画しており、その実現が“数か月後”に迫っていたと報じられている。ルノーはフランス政府が大株主であり、経営統合は“日産がフランスの企業になる”ことを意味する。そこに日産の経営陣は強く反発したとされる」

 もともとは、日産の経営危機をルノーの出資が救ったわけだが、「V字回復」以降の近年はむしろ“ルノーが日産株の配当で食いつなぐ”という関係に変わった。ゴーン容疑者主導での経営統合に、日産プロパーが反発するのは当然だ。

 そうした情報を元最高幹部である小枝氏にぶつけると、「ルノーと日産の関係は、お互いにメリットがあるから続いてきたもの」としながらも、「これ以上(提携を深める)というのは違う論議。今がちょうどいいバランス」と、“日産はあくまで日本企業”というニュアンスを言外に含めた。

 多くの雇用を創出する大手自動車メーカーは、国の経済を下支えする存在だ。「ルノーの影響力が強まれば、生産拠点をフランスに移すなどの施策が採られる可能性もある」(前出・伊藤氏)のだから、一企業の問題にはとどまらなくなる。

 そうしたなかで、日産経営陣の情報提供をもとに動いたのが東京地検特捜部だ。

「捜査の指揮を執ったのは森本宏・特捜部長。特捜部副部長から法務省刑事局総務課長という“エリートの登竜門”を経験した検察庁のエースです。2010年の大阪地検での証拠改ざん事件以来、検察は冬の時代を迎えていた。ゴーン氏という超大物の逮捕に、刑事司法改革の目玉である司法取引を用いるのだから、『国家秩序を維持する検察』をアピールする絶好の機会となった」(前出・伊藤氏)

 さらに、逮捕劇の“演出”に一役買ったのが朝日新聞だ。11月19日夕刻に逮捕情報をいち早くスクープ。

「企業取材を担う経済部ではなく、社会部の司法担当が抜いてきた。今回は相当な気合いの入りようで、動画班と連動し、ゴーン氏の乗った『N155AN』の飛行機が羽田に降り立つところまで克明に捉えた」(朝日新聞関係者)

 翌日以降は、経済部の地力に勝る日経新聞とともに、過少申告の手口や会社の投資資金、経費の流用先などの“スクープ合戦”を繰り広げ、「独裁者ゴーンの驕り」が強調される流れは決定的となった。

「1人に権限を集中しすぎた」──西川社長は会見でそう口にした。権限なき残りの経営陣が「戦い」を挑むには、今回のようなやり方しかなかったのだろう。不正に手を染めた“かつての救世主”と対峙するにあたり、経営陣の胸にも去来するものがあったのではないか。

「(ゴーン容疑者の)功と罪は……単純には比較できないです」

 小枝氏は慎重に言葉を選びながら答えた。すべてを詳らかにできない戦いの渦中にある現役幹部の心中を慮っているようでもあった。

※週刊ポスト2018年12月7日号

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