国内

政府に「単純労働」と定義されかけた現場で働く人々の怒り

決して「単純労働」ではない仕事ばかりだ

 11月2日の閣議決定された改正入国管理法案は、これまで高度な専門職に限られてきた外国人労働者の受け入れを、いわゆる単純労働分野にまで拡大するという大きな変化をもたらすものだ。まず「特定技能1号」という新しいカテゴリを新設して広く受け入れる予定だが、この1号に入る見込みだと言われている農業や漁業、介護、建設、造船、宿泊など14職種で働く人たちから大きな反発が起こり、政府は、1号は単純労働ではなく一定の技能を持つ労働だと弁明に必死だ。だがいったん広まった怒りはなかなか静まらない。ライターの森鷹久氏が、「単純労働」で働く人たちの落胆と怒りについてレポートする。

* * *
「単純労働と言われて体が震えるほどの怒りを覚えます。給与が安いことについてはまだ割り切れる部分もありましたが、その上単純労働などと分類されて…。この国は若者や女性、さらに言えば大多数の市民を奴隷同然に思っているのではないかと感じます」

 埼玉県の高齢者福祉施設でケアマネージャーを務める佐藤真美さん(仮名・三十代)が、顔を紅潮させながら訴えるのは、政府が閣議決定をした入管法改正案の中で、介護や外食産業など14業種が“特定技能一号”と分類されたからだ。この分野に就労する外国人労働者の受け入れを拡大させ、我が国で深刻化している労働者不足を解消しようという試みだが、単純労働者を受け入れると明らかにしたあとに発表したため、この新分類は単純労働ということだという理解が広まった。

 当然、改正入管法については、野党だけでなく与党内からも拙速だと疑問の声が噴出。こうした反応に対応しようと、政府は当初「特定技能1号」は単純労働ではない、と必死に説明するが、まさに詭弁そのものだと筆者には見える。

 たとえば、農業や漁業では現行の外国人技能実習生制度が、事実上の外国人単純労働者受け入れとして機能してしまっているのは、取材をすれば嫌というほど実感する。この分野はかつて、いや、つい数か月前までは”単純労働”とカテゴライズされ、実習生以外の外国人が就労することは禁止されていた。条件や待遇の悪さに失踪して行方不明となる外国人研修生も珍しくないため「現代の奴隷制度ではないか」との指摘が相次いでいるが、この現行制度の見直しを置き去りにして、新たに外国人労働者を受け入れることになるというのが実情なのだ。

 本来なら”単純労働”者は受け入れられないが、一号労働であれば”単純労働者”ではなくなる…そんな思惑がアリアリと透けて見えるのではないか。

 当然、様々な場所から批判が出ている。すでに多くの外国人技能実習生を受け入れている、茨城県内在住の農業・丸井修司さん(仮名・50代)が怒りの声を上げる。

「現状の技能実習生制度は、はっきり言って“奴隷”みたいなものです。しかし、彼らがいないと我々の仕事も成り立たない。彼らも給与が低いことをわかっているから、レクリエーションを増やしたり、食事をふるまったりして、なんとかお互いの関係を保っているが、これ以上は限界。ギリギリで乗り切っているのに、今度は実習ではなく外国人労働者を受け入れですか。要は、安く使える外国人を増やして、もっと安く、早く野菜やコメを作れってことでしょう? そんなことされたら、うちのような農家はもう限界です…。

 野菜もコメも、ただ作ればいいってもんじゃない。いいものを作るには時間もかかるし知識も、技術もいる。そもそも単純労働とされてきた私たちの仕事。特定技能うんぬんと下手な言い換えをする前に、政治家や役人がやってみろと…。せめて我々の農産物が適正な価格で流通してくれれば、実習生にも適正な給与が支払われるし、国民の生活もよくなる。金持ちや政治家が、もっと儲けようと我々を奴隷化しようとしているのではないかとすら感じる。これだけは許せない。農業は国の基幹産業なのに、人が来ないし不人気だという事実を、どうしてもっと重大な問題として受け止めてくれないのか」

 農家にとってしてみれば、特定技能云々という前に、産業が持続できるかどうかの瀬戸際に、更なるコストダウン化を迫られているとしか思えないというのが本音だ。すでに一部では「奴隷のよう」と報道されている、外国人技能実習生の存在。そんな彼らの実情を顧みずして新たな外国人を呼び込むというのは、丸井さんにとっても大変な苦痛なのだ。

 しかしである。今の我が国において、本当に労働者は足りないのだろうか? 確かに、首都圏のコンビニや牛丼店に行けば、外国人が働いていない店を探すのが難しいほどである。そんなに日本人が足りないのかと思う一方で、失業者やニートの数が減っているとの声も聞かれない。外国人を受け入れなければならぬほどの“人不足”の裏には、何か事情があるのではないか?

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン