「いくら医者が人格者で、いい人だったとしても、治療には関係ない。僕を助けてくれたのは、がん専門病院が持つ圧倒的な情報量と症例、優秀な看護師でした。看護師の力量は重要で、東病院では僕が『今日は元気が出ない』と言うだけで、看護師が『それはあの薬が原因なので、こうしましょう』とアドバイスをくれた。やはり患者としては、総合病院よりもがんを治すことに全力を傾けている医療機関のほうが安心して治療を受けられました」

 がんのような重い病ほど患者は、“名医”を頼りがちで、「先生の機嫌を損ねたらどうしよう」と医者への意見を躊躇してしまう。しかし、なかにし氏は、がん患者は「善き人」であるよりも、「正直者」になることが大切と主張する。

「僕は“正直者”としてのがん闘病を選びました。実際、最初のがんで医者に言われるがままに、善き人として手術を受けていたら、僕はもうこの世にいなかったかもしれません。医者の機嫌なんていくら損ねてもいいから、自分に正直に生きることが大切なんです」

◆僕も「正直な人」になれた

 なかにし氏が挙げたのは、黒澤明監督の名作『生きる』だ。

 この映画では、市役所で働く主人公が胃がんで余命いくばくもないことを知り、絶望感からパチンコやストリップ劇場で放蕩する。その後、主人公はかつての部下のはつらつとした姿を目の当たりにして生きる意味を見出し、市民が必要とする公園の建設に乗り出す。そして様々な無理解や妨害を乗り越えて公園を完成させたのち、穏やかに息を引き取る。

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