消費税アップによる価格転嫁は、日銀の悲願である「物価上昇」には役立つかもしれない。だが、物価が上がっても賃金が上がっていない状況では、消費マインドは改善しない。事実、総務省の家計調査においては1997年をピークに可処分所得はずっと右肩下がり。実質賃金が上がっていないことが主な原因だ。

 家計収入が増えていない中で、外食の値上げがいかに消費者にインパクトを与えるか。人件費や材料費の高騰を理由に280円均一から298円に価格改定を行って客離れ→減収に見舞われた「鳥貴族」がいい例だろう。たかが1品18円とはいえ、一斉値上げは消費者の客足を止めるには十分だった。

 鳥貴族からすれば、税別300円以内に抑えたという自負や自信もあったのだろうが、その目論見は大きく外れた。付加価値を付けて価格を改定したわけでなく、原価の高騰というある意味素直な値上げに対して、消費者が敏感に反応したのは特徴的だった。

 消費増税の影響は、こうしたサラリーマンの懐にやさしい「ちょい飲み」業態に広がっていくだろう。

 たとえば、駅前でよく見かける中華の「日高屋」は、餃子にラーメンと生ビールで950円という、1000円以内の“せんべろセット”を提供している。手軽な価格というだけでなく、家庭では再現できない焼き立てのあつあつ餃子、そしてキンキンに冷えた生ビールはサラリーマンならずとも鉄板の組み合わせだ。

 また、今年6月に全店禁煙で話題となった「串カツ田中」は、禁煙後も客数は好調で、子供連れや若者など新しい客層が広がっている。もちろん、人気の秘密は安さにある。手軽な100円串から200円串まで取り揃えている。

 庶民の楽しみである、せんべろや100円串も、消費税の改定により価格転嫁を余儀なくされる。仮に店が増税分の“値下げ”で価格を維持しようと思えば、売り上げ確保のために仕入れ先や原価を見直すなどして質の低下につながりかねない。いずれにせよ、消費者にとっては、1000円で飲める量がさらに少なくなるか、質が悪くなるかのどちらかの選択肢しかなくなり、ささやかな楽しみが奪われていく。

 外食という消費行動の停滞は、税収全体から見ても決して好ましい姿ではないだろう。政府は複雑なポイント還元やプレミアム商品券の発行など、多くの諸経費をかけて景気対策を行うとしているが、増税に伴う税収の増加と景気対策費用との収支バランスはとれていないように映る。また普及が遅れているマイナンバーの活用で5%還元するなどという驚きの話も飛び出し、世間を混迷の渦に巻き込んでいる。

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