「大事なのは病で体の自由が利かなくなったときに、自由な魂をどう働かせるか。ホーキング博士の例を見ても、車いすに縛りつけられていても脳は無制限に働くんだから、人間の精神性は無限なんです」
二度目のがん克服から約三年経ったが、再々発の兆候はない。なかにし氏は、時間を見つけては趣味の読書や映画鑑賞に明け暮れる。
◆戒名を自分で決める幸せ
飽くなき好奇心で精神を満たすと同時に、進めているのが「死の準備」だ。二度目の闘病の最中に「無礼庵遊々白雲居士」という戒名を決め、現在は自らの葬式のアイデアを練る。
「葬式という人生最後のイベントで何を着ようか考えます。いつもの黒い服は私の戦闘服だから葬式にそぐわないし、真っ白な死に装束も避けたい。紋付き袴にするかタキシードにするかと考え始めたら一日なんてあっという間に楽しく過ぎていってしまう。
葬式なんて不要だとも思うけど、どうせ誰かが『お別れ会』を開くだろうから(苦笑)。人はすぐ、僕のヒット曲を流そうとするだろうけど、僕の葬式では御免被りたい。“終活”という言葉は軽いから嫌いだけど、自分の死という一生に一度のことを人任せにしたくないんです」
そうしてがんを乗り越え、「やり残したことはない」と断言するなかにし氏が最後に強く望むのは、「がんで死にたい」ということだ。