そんな私の感想などはどうでもいい。むしろ、多大な人的損害をもたらした昭和史の悲劇をあらためて想起させたのが、「玉音放送」としての大きな価値だったのかもしれない。改元を前に、その昭和史を有耶無耶、曖昧にしてはいけない、という危機意識が、当事者に近いところで静かに起っている。御厨貴編著『天皇の近代―明治150年・平成30年』(千倉書房)である。編者の御厨東大名誉教授は、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の座長代理として、この会議のスポークスマンを務めた。
御厨は一代限りの退位を認める特例法の「決定関与者」となった自らの政治的役割を、一歩引いて「研究者」の立場から解剖している(第10章)。官邸と宮内庁の間にかわされたバトル、官邸の徹底した情報管理、有識者会議に課された「国民の総意」というクッションと憲法違反からの回避というお役目などを洗いざらい提出する。天皇の「能動化」への危惧を、開けっぴろげに検証しているのだ。
※週刊ポスト2019年1月1・4日号