国立女性教育会館は、男女共同参画を推進するために文部省(当時)の附属機関として1977年に発足。以降、女性の社会進出や活躍推進などの人材育成や調査研究に取り組む。
そうした中、鉄道業界で働く女性をクローズアップしようと考えたのは「鉄道会社で働く友人から職場の話を聞いたこと」(同)がきっかけだった。星野さんは、国立女性教育会館で開催する企画展のテーマを考える担当。これまでにも化学や演芸といった、ちょっと風変わりな分野で女性の社会進出にまつわる企画展を開催した実績がある。
友人の話を聞き、星野さんは男性社会である鉄道にも女性が進出する道を示したいと考えるようになった。しかし、改めて企画展の準備で資料を収集していくと、鉄道業界の閉鎖性を感じさせられたという。
例えば、東京市電気局(現・東京都交通局)が従業員用に配布していた手帳「電車従業員心得」には”男子ニテ品行方正身元確実ノモノ”という一文が公然と掲載されている。
東京市電気局は純然たる公的機関。女性が就業できないことを仄めかす書き方ならともかく、女性が就業できないことを堂々と謳っていることには驚きだ。これは、一例にすぎない。星野さんは調べれば調べるほど、鉄道業界が特殊な業界であることを実感した。
もちろん、現在の東京都交通局には女性職員が在籍している。今では、駅ホームなどで女性職員を目にすることは珍しくない。東京市電が男子しか採用しなかった戦前の例をもって、現代の鉄道業界を論じることはできない。それでも、男性職員に比べれば圧倒的に女性は少ない。
「ほかの業界に比べ、鉄道業界の女性進出が遅れた理由は勤務体系にあります。鉄道は朝早くから夜遅くまで運行していますから、駅員や運転士の勤務体系は通常の会社とは異なるのです。泊まり勤務もあるので、事業者は宿泊施設を整えたりしなければなりません。お金がかかりますし、整備時間も必要です」(同)
鉄道業界だけに限った話ではないが、中小企業は数少ない女性社員のために女性トイレや更衣室を設置できるほどの財政的な余裕がない。
企業規模の大きなJRや大手私鉄でも、職員用の女性トイレや更衣室を勤務先の各駅や車両基地などに設置することは難しい。まして、経営の厳しい地方鉄道が女性職員を採用するとなると負担は莫大になる。こうしたことを理由に、女性職員の採用に尻込みしてしまう鉄道事業者の気持ちは理解できなくもない。
とはいえ、女性の社会進出は時代の要請でもある。鉄道事業者だからといって、「女性は採用しない」という理屈は許されない。また、鉄道業界では運転士などの成り手が不足しており、そうした面からも女性の受け入れを拡大させる芽は生まれている。