昨年、スポーツ界で相次いで起きたパワハラ騒動。パワハラをした張本人が責任を問われるのは当然だが、それを放置した周囲の傍観者には責任はないのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
昨年、一番許せなかったのは芸能事務所の社長が、部下の顔面をしゃぶしゃぶの鍋に押し付けた事件です。これはパワハラを超えた暴力行為で、解せないのは、その場にいた社員たち。誰も止めに入らず、逆に煽る始末……。彼らも結局は同罪であり、法的に罰せられなければいけないのではないでしょうか。
【回答】
犯罪行為を止めに入らないのと、犯罪行為をすることは違います。犯罪行為を止めないことが罪になるには、罪刑法定主義の原則から、そのこと自体が犯罪として定められている必要があります。
止めないことではありませんが、飲酒運転の同乗が罪になるのは、道交法の定めがあるからです。それも単に同乗しただけではなく、飲酒運転を知りながら運送することを要求したり、依頼した場合です。また、刑法では老齢者や幼児等を保護する義務のある人が、保護をしなかったときは罪になります(保護責任者遺棄)。このように、個別的に法がある行為をしないこと(不作為)を犯罪としているのを真正不作為犯といいます。