そこでCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を置き、営業グループごとにデジタル戦略担当を配置。デジタル戦略委員会も設置して社長が直轄、中枢を担う経営企画部には事業構想室も設置し、これも各営業グループに事業構想担当を置くという。
こうした商社の危機感は、かつてのITバブル(1999年~2000年頃)でも起き、当時も商社中抜き論に身構えていたのだが、その後、世界の資源市況が高騰したことで資源権益が莫大な利益を生み、焦りは後退していった。
が、今回は業績好調といえども、サバイバルを賭けたパラダイムシフトと考えているのだろう。併せて、冒頭で記したように若手人材の少なからぬ流出にも危機感がにじむ。
高給の商社マンが天びんにかける業種といえば、鉄板なのがマッキンゼーやボストンコンサルティングといった外資系コンサル会社か、ゴールドマンサックスなどの外資系投資銀行だ。それぞれ一長一短あり、外資系だとリストラや首切りが日常茶飯事なので、自由な半面、生き残り競争は激烈だ。
一方の大手商社は、縦割りで年功が幅を利かせ、若いうちは下積みが長いものの、社内政治に疎くなければかなり安泰と見られてきた。
自分の腕に自信がある人は外資系へ行き、そこまでは思い切れない人はそのまま商社に残り、そのどちらにも該当しない人で会社や仕事に不満のある人は、ベンチャー系やスタートアップ系の会社に役員や幹部として転職するという、ざっくり3分類ではないか。
そんな中で注目されるのが、三菱商事が2019年4月から導入する新人事制度である。より具体的な制度設計や運用法の詳細はまだわからないが、考え方として、前述の垣内社長は中間決算説明会時、こう語っていた。
「今回の新人事制度は足かけ3年かけて立案した、20年ぶりの人事制度の大改革で、30歳からでも経営人材に登用していく。成功すれば報酬も1.5倍から1.6倍にする仕組みに変え、部下の成長を支援するような人事体系に変えたい」
これは、上の世代とはまったく価値観が違う、前述のミレニアル世代の流出を抑えていくために必要に迫られた側面もあるだろう。また、30歳過ぎからでも経営人材に登用するという点は、本社というよりグループ会社に出向・転籍したり、社内ベンチャー制度などで会社を立ち上げた人たちが主な対象と目される。
そこで、業界首位の商社、それも“組織の三菱”の総本山の1社である三菱商事で、そうした大胆な経営人材登用がどこまで実行に移せるか、注目されているのだ。